「―――姫様、陛下からのお見舞いの品が届きました」
「……またかよ…」
明るい昼下がり。
窓から日差しが差し込む暖かい寝室に、いかにも嫌そうな声が低く響く。
「そんな嫌そうな顔をしないの、エド。せっかく陛下が心配して、贈ってくれるものなのに…」
素に戻ったウィンリィが、正方形の箱を両手で抱えて運んでくる。
「その気持ちは嬉しいけど…こうも毎日毎日続けてだとなぁ…」
うんざりしたように呟く。
「よっぽど心配なのよ、あんたのことが。忙しいのに、毎日見舞いは欠かさないし、こうやって別にお見舞いの品を届けてくれるし」
「…んな重傷じゃないっての。もう抜糸も終わったんだし…」
大袈裟すぎる、とぶつぶつ言うエドワードの傍らのテーブルで、ウィンリィはいそいそと箱を飾ってあるリボンを外し、蓋を開けた。
「あら、今日はケーキね!手作りみたい…」
「え、ケーキ?」
「うん。カードも入ってるわ。えーとなになに、『ヒューズ公爵夫人お手製のケーキです』だって!」
「あ、以前アップルパイを贈ってくれた人だな?」
「そうそう。あの方の作られるデザートって絶品なのよねえ。ご本人も、とてもお優しい方だったし」
「うん…そうだな…」
負傷してから、宮殿に戻った後に、ヒューズの名代として、わざわざ見舞ってくれたのだ。その時には、やはりお手製のアップルパイを持ってきてくれた。その味は絶品としか言いようがなく、エドワードとウィンリィは感動を覚えたくらいだったのだ。
「あの人の作ったケーキなら、とっても美味しい筈よね。早速切り分けていただきましょうか?」
「そうだな。ちょっと早いけど、お茶の時間にしようか」
エドワードも賛成し、急遽ティータイムに突入する。
「―――でも、陛下って、ほんっとあんたにはとことん甘いわよね。このケーキだって、わざわざ公爵夫人に頼んで作ってもらったのよ、きっと」
「そんな……こと…」
「ううん、絶対そうよ!だって前に見舞いに来てくれた時に、公爵夫人の作ってくれたアップルパイのことを話したもの。その時のことを、ちゃんと覚えてくれていたのよ」
「……ああ、あの時…」
「ほんっと、あんたのことを大切にしてるのがよく分かるわぁ」
「――――うん…」
頷き、寂しそうに笑うエドワード見て、ウィンリィは表情を曇らせた。
「…ねぇ、エド」
「何だ?」
「離宮にいた時に、言ったよね?『ちゃんと考えているから』って…」
「――――ああ」
「その後…賊に襲われた後も、リザさんに言ったよね。『陛下には、ちゃんと説明する』って」
「そうだったな…」
「…ほんとに…本当に、何もかも言っちゃうの?自分は男だってことを、あの人に…?」
「言わないといけないだろ?このまま黙っていても、いずれはばれてしまうんだから」
エドワードの言うとおりだ。この調子だと、エドワードが皇妃に据えられるのは確実だ。ここ最近の、皇帝の執心ぶりは、国民の間で噂になるくらい伝わっているのだから。
「…でも、真実を告げたら、自分がどうなっちゃうのか分かってるの?」
「国全体を騙した罪で、良くて国外追放、悪くて極刑か一生幽閉…ってところかな?」
「…そんな、簡単に言わないでよっ!」
「―――大丈夫。ウィンリィや親父達に、迷惑掛けないようにするから」
「私は、そんなことを望んでるんじゃないのよっ!」
ウィンリィは、思わず叫ぶ。
「この国の人々を騙したのは、エド自身のせいじゃないじゃない!それなのに…罰を受けないといけないなんて…。そんなのおかしいわよ!」
ウィンリィは、大きな瞳に涙を浮かべて叫ぶ。
「…それでも、騙したのは事実だ。その罪は認めないと…」
例えどんな事情があれ、それはこの国には関係のないことだ。国全体を騙したと言われれば、その罪は甘んじて受け入れよう。
そう、エドワードは決意していた。
それが、自分を受け入れてくれたこの国に対する償いだと、思っていたから。
「だからウィンリィ、泣くなよ。ほら、まだ極刑とか決まったわけじゃないし。運よくエルリック王国に戻れるかもしれないんだしさ」
努めて明るい口調で、慰めるように言う。
(オレは無理でも…おまえだけは、戻れるようにするから…)
心の中で、そっと呟く。このことは、口には出せないから。絶対に、彼女には知られてはいけないから。
だが、ウィンリィは、エドワードの笑顔を見ても、泣くのを止めることが出来なかった。
(…どうして…どうして、そんな風に笑えるの?)
自分の背負ってしまった運命を受け入れて、その辛さを隠して、笑う。
それが彼の強さだと言えばそれまでだが、ウィンリィは、エドワードが無理をしているようにしか見えなかった。
だから。
決して人前では泣こうとせず、懸命に彼女を慰めているエドワードの分も泣くかのように、涙が次から次へと零れ落ちていった。
箱から出したケーキが、ほんの少し乾くまで、泣き続けていた。
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