
『綺 羅』
スター、早打ち、ランダムスター…
「何、それ?」
「花火の種類だそうだ。他にも別に、花火それぞれのテーマもついているみたいだが…」
「ああ、それで、さっきから、『フラワーガーデン』とか、いろんな名前を放送してるのか…」
と、エドワードが呟いた直後、再び夜空を色とりどりの花火が彩る。
今夜は、年に一度の花火祭り。
セントラルの夏の風物詩となっているこの花火の祭典には、セントラルのみならず毎年近隣からたくさんの人々が集まってきて、花火見物を楽しむ。
「…今年は、シン国の花火師も招いているそうだから、変わった花火も見られるみたいだよ」
「へえ、楽しみ」
と、嬉しそうに微笑んで、ロイを見上げる。その仕草で、綺麗に纏め上げた髪に飾られた、銀とブルーの簪が、しゃら…と軽やかな音を立てて揺れる。
「でも…いいのか?」
「何が?」
「オレ達だけ、こんなところで花火見物していても」
エドワードが心配そうにぽつりと呟く。
彼女がそう言うのも無理はない。
エドワードの隣に立って一緒に花火を見ている男は、エドワードの夫であるとともに、この国のトップに立つ男なのだ。
花火大会は、民間の団体が主催しているものの、国も当然後援をしている。だから彼は、本来なら来賓席での見物をすることになるのだろうが、今回はそれを辞退したのだ。
「私がいない方が、堅苦しくなくていいだろう?それに私も、むさ苦しい男達と見物するよりは、こうやって君と見ている方がずっとずっと楽しいからね」
と、あっさりと言い切る。
「来賓席には、将軍を向かわせているから不義理にはならないだろう。それに彼等にも、今夜は妻と一緒に見物したいと話したら、すぐに納得してくれたよ」
そう言って、隣にいる最愛の妻に笑いかけると、彼女は夜目にも分かるくらい顔を赤くしていた。
「……恥ずかしい奴」
「新婚だから、それくらいの我侭は許されてもいいだろう?」
そう。
ロイが言うとおり、2人は結婚してまだ間もない。
そして、この国の若き指導者と、その妻の仲睦まじさを誰もが知っているために、この度の我侭も納得してもらえたのだろう。
「でもさ、少佐達は警備の指揮をしてるっていうのに…」
「その少佐が、これを用意してくれて、しかも見物しに行けと言ってくれたんだから、大手を振って歩けるさ」
ロイは嬉しそうに、自分の身に纏っているものを示す。
それは、この国では滅多に見ることのない、衣装。
少佐……リザの説明によれば、海を越えた遥か東の国の伝統的な民族衣装で、名前を『ユカタ』というものらしい。
シン国を経由して入ってきたその貴重な衣装を、どういうつてで手に入れたのかは知らないが、それを彼の国では、夏場のお祭りの時に着るらしいという注釈をつけて、ロイに渡したのだ。
『エドワード君と、2人で花火見物を楽しんでください』
という言葉を添えて。
そしてロイとエドワードは、『ユカタ』に添付されていた着付け方法を見ながら、悪戦苦闘しつつも、何とか身に纏うことが出来て、街中へと繰り出したのだ。
「…しかしこれは、着ると暑いかと思っていたが、 なかなか涼しいものだな」
ロイは、自分が着ている、濃紺の浴衣を見て呟く。
「うん。それによく似合っているし」
着たことがないだけに、どんな風になるか不安ではあったが、結構…かなり様になっているとエドワードは思った。
「エディは、暑くないか?」
「うん、大丈夫」
笑って、エドワードが答える。彼女が着ているのは、生地の色はロイと同じだが、白と赤の花柄模様が織り込まれている。そして、腰の辺りで締めている『帯』の色も、ピンクと紫で、彼女の愛らしさを引き立てていた。
「これって、裾とか袖が割と開いているから、見た目より涼しいよ」
と言って示した足元は、裸足で『下駄』という履物を履いている。
その、裾が揺れてちらちらと見え隠れする白い脚に、当然と言うか、ロイの目が向けられてしまう。
(……たまには、こういったのもいいな…)
と、心の中でこっそり呟きながら。
「けどさ、この履物、慣れないと足痛めそう…」
と、下駄を示して苦笑する。
「そうなったら、私が背負って帰ってあげるよ」
「恥ずかしいから、却下!」
と、照れ隠しも兼ねて、ぶっきらぼうに呟き。
だがすぐに、嬉しそうにロイへと笑いかける。
「……でもさ」
「ん?」
「この、足が痛むの、嬉しいんだ」
エドワードは、ロイに左足を示す。
「前だったら、痛くならなかっただろうし…。第一、こんなの履けなかった。機械の足を晒したくなかったから…」
確かに、今の彼女の格好は、機械鎧であった頃ならば、決してしようとはしなかっただろう。
なるべく、機械のそれらを隠すような服を、身に纏っていたあの頃は…。
「でも、今は、そんなことを気にしなくてもいいから!」
生身の腕と足を取り戻した今は。
こうやって堂々と、歩くことが出来る。
「だから…痛くても嬉しい」
そう言ってロイに笑いかける、愛しい妻の笑顔を、夜空に打ち上げられた花火が、鮮やかに照らし出した。
ロイにとっては、どんな花火よりも美しい、笑顔を。
花火見物に行った時に、思いついた話です。遠野師匠と、『ロイは浴衣が似合いそうだ…』とか、『エドが似合いそうな柄は…』などと、花火を見ながら話をしていました。後は、花火の打ち上げの時は、ロイだと簡単だろうなあとか。
…花火見ててもロイエドです。
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