イーストシティの恋人 番外編  

「あ…れ…?」


 ふと、目が覚めた。
 閉め切っていないカーテンの隙間から見える窓の外は、ほんのりと闇が消えつつある。
「…もうすぐ夜明け…かな…」
 エドワードは、少しだけ顔を、ベッドの脇にある窓の方に向け、小声で呟いた。
 いつもなら、まだ眠っている時間なだけに、再度寝直そうかと、身体を反転させると。
 そこには、見慣れてしまった男の顔。
 見慣れたというよりはむしろ、見ることに馴染んでしまったと言い換えた方が良いだろうか…。
 こうやって、1つのベッドに寝るようになり、隣にいても不思議ではないくらいには、馴染んでしまった。
 薄闇の中、エドワードは隣で眠る男の顔を見つめていた。
(…目を閉じてると、余計若く見えるな)
 元々、実年齢よりは若く見られがちな恋人だが、瞼を閉じていると一層それに拍車がかかるようだ。
 エドワードはそっと手を伸ばし、彼の頬に触れる。
(あ……ざらついてる…?)
 それは、髭の感触。
 ざらざした感覚が、こそばゆい。
 けれど嫌ではない。
 むしろ、こんな姿を見ることが出来て嬉しい。
 彼の、決して人前では見せない、姿を。
(―――どうして…なんだろう…)
 自分でも、不思議に思う。
 こんなに、彼のことが好きになったのは。
 エドワードは、眠り続けている男の顔を見て、相好を崩した。
(…出会いなんか、最悪で)
 好きになる要素なんて、1つもなかった。
 顔は良くて、お金持ちだけど、性格は最悪。
 それが、第一印象だった。
 なのに、今は……。
(…こんな姿でも、好きなんだよな)
 自分にだけ見せてくれる、素顔。
 それがエドワードには、嬉しい。
「これからは、どんな意外な素顔を見せてくれるのかな?」
 それがどんなものであろうとも、エドワードはきっと、彼のことは嫌いにはなれないだろう。
 エドワードは、そっと呟きつつ、ざらつく頬を撫でた……時だった。
 突然、撫でていた手を掴まれ、そのまま身体を引き寄せられてしまった。
「えっ……?」
 気づけば、隣に眠っていた筈の男の上に乗ってしまっていた。
「――――狸かよ…っ!」
「途中までは、眠っていたよ」
と、しれっと言う男の顔は、とても嬉しそうに笑っていた。反面、エドワードは照れ隠しのために、男を軽く睨んでいる。だが、その程度でひるむ男ではない。
「…私も、君のいろんな面を知って、驚いて……嬉しいよ」
 それは、傍にずっといなければ、気づくことがないからね、と男は笑みを深める。
「…例えば、君の胸が意外と大きいこととか」
 と言いつつ、その笑みのまま、男の大きな手が、自分の上に乗っているエドワードの胸を包み込む。
「――――こっ…の!セクハラ親父っ!」
 胸を軽く揉まれて、エドワードは声を上擦らせながらも、自分の下にいる男を睨みつけるのは忘れない。
「いや……。初めて会った頃は、もっと小さいと思ってたから…」
「オレだって、成長してるんだ!胸だって大きくなってるっ」
 初対面のときから、既に数年が経過している。
 あの頃に比べると、エドワードは確かに女性らしく成長していた。
 ―――とても美しく。
「……そうだな…」
「ロイ……?」
 微笑み、激しく抗議するエドワードの頬に、そっと手を伸ばした男の顔を、エドワードは見下ろす。
「…こんなに綺麗になったエディと、再会出来た私は幸せ者だ」
「んな大袈裟な…」
と、口では言いつつも、エドワードは嬉しそうに笑う。
「―――ま、オレもあんたの意外なところを見つけることが出来て、嬉しいかな…」
 それは、再会できなければ、決して叶うことはなかった。
 好きな男の、いろんな面を見ることなど……。
「私もだよ、エディ…」
 と言いつつ、エドワードを引き寄せ、軽く唇にキスをする。
「……というわけで」
「えっ?」
「目も冴えてしまったことだし、これから再度、互いの意外な面を探すことに専念したいのだが…どうかな?」
 と言いつつも、既にロイの手がエドワードの肌を意図的に触り始めている。
「……もう、探しつくしてるだろっ…。今まで散々…!」
 その手の動きに、エドワードの息が少しずつ上がる。それでも抗議の言葉を出すのを止めなかった。
「まだまだ、足りないよ。エディの全てを知ったわけじゃないから…」
 だから、とロイはエドワードの身体を引き寄せつつ、耳元で囁く。

「互いにもっともっと、知り合おう…」

 これから先の、二人の重なった時を使って。



「…しょうがないな。付き合ってやるよ」
 ロイの言葉に、エドワードは頬を赤くしながらも応えて。

そっと恋人の裸の胸に自分の肌を押し当てて、唇を重ねた。