イーストシティの恋人 4
『元気にやっているか、アル?
オレは勿論、元気だぞ。
勉強も順調に単位を取ってるし、今度飛び級の試験でも受けてみようと思う。
早く、国家錬金術師になりたいもんな。
最近は割と時間もあるから、バイトも始めた。
あくまで、学校に差し障りがない程度だけど。
大企業の社長の家の、ハウスキーパーだ。
掃除とか洗濯とか、毎日やってるんだけど、その社長っていうのが一人暮らしだから、余り部屋も汚れないし、洗濯も少ないから楽な仕事だ。
それに必ず、チップも置いてくれてるし。
やっぱり金持ちって言うのは、太っ腹だなあ。
社長本人が、腹が出た親父かどうかは分からないけどな。俺は、社長が出社している間に掃除してるから、顔を合わせる機会がないんだ。
でも、思っていたよりは仕事が辛くないから、頑張って続けてみようと思う。
アルも勉強、頑張れよな!
バイト代が溜まったら、一度リゼンブールに帰るから。
これを書いているのは、学校の図書館だ。
ここはたくさん本があって、とても居心地がいいから好きだ。
イーストシティも、東部一の都市だから、賑やかだぞ。
退屈しない。
一度おまえにも、見せてやりたいな…。
エドワード』
「――――これでよし、と」
便箋に書き終えたエドワードは、封筒にも宛名を書き、その手紙を折りたたんで入れ、封をした。
「…これを、帰りにポストに投函して…っと」
切手も貼って、脇に置いていたバッグの中に入れると、ふかふかしたソファから立ち上がる。
「…よし!休憩終了。次は洗濯だな」
と言いながら、床に置きっぱなしだった掃除機を片付け始めた。
そう、ここは。
学校の図書館ではなく。
「―――ここも居心地いいから、ついつい長居しちまう」
エドワードは呟きつつ、洗濯籠に入っていた洗い物を洗濯機に放り込んでスイッチを押した。
「全自動の洗濯機なんてさ。やっぱり金持ちは違うねえ…」
感心しつつ次は、隣にある浴室へと向かう。
「さてっと、掃除の前に…」
そう呟いて二十分後。
「うーん、広くて気持ちいい!」
手足を思い切り伸ばすことが出来るくらい、広々としたバスタブに湯を張り、ご丁寧にバブルバスまで入れて泡だらけになりながらも、入浴を満喫しているエドワードの姿があった。
アパートを追い出され、路頭に迷いそうだったエドワードは、シェスカに泣きついて、次の住居が見つかるまでという条件で学校の寮に入れさせてもらったのだ。
本当なら、その寮は入校して一年目しか入ることが出来ないのだが、幸いなことにエドワードが、学校での成績は常にトップにいることから、特別に許可されたのだ。
だが、その寮の部屋というのが、寮内でも最も狭く、しかも北向きの日が殆ど入らない部屋で、その上空調設備は壊れているという、とてつもなく劣悪な環境だった。
それ故に、いつもその部屋には寮生を振り分けることはせず、常に空き室となっていたのだ。
だが、無理を頼んでいるエドワードは、そんなことで文句を言える筈もなく。
寝る場所があるだけまし、と、その部屋を使わせてもらっているのだが…やはり寮生活は何かと不便だった。
シャワールームは共同だし、洗濯も順番待ち。
しかも自分は無理を言って寮に入っているので、多少なりとも他の後輩の寮生達に遠慮がある。
その結果、エドワードは、こうして家政婦として訪れている社長宅で、こっそり風呂を使ったり、自分の洗濯物を洗ったりしているのだった。
「――――使っても、後でちゃんと掃除しておけばいいもんな…」
温かい湯に浸かりながら、鼻歌混じりで呟く。
洗濯も、この豪邸には乾燥機なるものが置かれてあるので、洗濯した自分の衣類を、それを使って乾かし、持ち帰ることが出来た。
そんな好き勝手も、日中はこの邸宅にエドワード一人しかいないことから出来ることで。
彼女は、豪邸での、自由気儘な家政婦ライフをまさに満喫していたのだった。
だがそうしていることで、雇われた時は仕事を終えたらすぐに屋敷を出るようにと言われたにも関わらず、ついつい長居をしてしまうので、大体屋敷を出るのは夜に入ろうとする頃になっていた。
「……学校で授業が終わるのが、二時頃になっちまうからなあ…仕方ないか」
ただ単に言われたことだけをするのだったら、ものの数時間で片がつくのに、個人的にいろいろすることで長時間になってしまうのを棚に上げて、エドワードは納得したように呟く。
それから、入浴後のバスルームの掃除を終わらせたエドワードは、再びリビングルームに戻ってきてソファに置いてあった自分のバッグから、メモ用紙を取り出してペンを走らせ始めた。
「えーっと……今日は…」
ぶつぶつ呟きつつ、小さなメモ用紙に書きこみ、それをソファの前のテーブルの上に置く。
それから、壁の大きな掛け時計に目を向けて、慌てて立ち上がった。
「うわっ、いけない、もうこんな時間だ!」
時計の針は、この屋敷の主が戻ってくるであろう時刻の三十分程前を指している。
エドワードは慌てて立ち上がり、バッグを片手に部屋の電気を消すべく壁際に向かおうとして。
「―――あっ、そうだ!」
明かりのスイッチに手を伸ばすのを止め、その脇にある大きな書棚に向かう。
「えっと……これは返して、と」
バッグの中から取り出したのは、1冊の分厚い本。
背表紙には、『錬金術大全第5巻』と印刷されている。
「次は…六巻目か」
エドワードは手に持っていた本を書棚に入れ、すぐさまその隣にある本を取り出し、バッグの中にいそいそと入れた。
「…しっかし凄いよなあ、この蔵書」
しげしげと感心したように漏らし、壁を埋め尽くす書棚を見上げる。
それは、この家の主が集めたものなのか、錬金術に関する書物が大半を占めていたのだ。それも、学校の図書館にも入っていないような貴重な書物が、所狭しと並べられているのだ。
「ここの住人って、とても錬金術に興味があるんだなあ…」
そうでなければ、これ程に偏った収集をする筈がない。
しかも、貴重本ばかりだから、本にかけた額は半端ではない筈だ。
「大企業の社長のくせに、錬金術に関心があるなんて……変なの」
そう言いつつも、エドワードはそれ以上このたくさんの本を集めた雇い主についての興味を失い、再度時計を見て、今度こそ本当に部屋の明かりを消して出て行った。
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