『逢』
何もかもが終わったら。
傍には、君がいてくれると思っていた。
「……今日もいい天気だな」
ロイは、立ち止まり、ふと空を見上げる。
天気の良い日にはこうして、リハビリも兼ねて散歩をするのが、いつの間にか習慣となってしまっていた。
「准将……?」
歩くのを止めたロイを、隣で歩調を合わせて歩いていたリザが呼ぶ。
「いや……。この空は、この世界のどこにいてもあるのにな…」
ロイはぽつりと漏らし、再び青く澄んだ空を見上げる。
どんなに遠くへ行っても、この空は存在するのに。
(……どれ程探しても、君は本当にこの世界にはいないのか?)
胸の中でそっと呟く。
その時、ふわりと蜂蜜色の髪が、彼の傍を掠めたような気がした。
ホムンクルスである大総統を倒した後、半死半生のロイがエドワード達の事を知ったのは、何もかもが終わって、随分たってからのことだった。
尤も、ロイ自身昏睡状態が続いていて、とてもではないが、エドワード達の状況を聞ける状態になどなかったのだが。
そして、ようやく病院のベッドから起き上がれるようになった頃に、リザの口からエルリック兄弟のことを知ることが出来たのだ。
彼女の話を、黙って聞き終えたロイは。
『そうか……』
ただ一言呟き、それ以後は兄弟のことを口に出すことはなくなった。
そして、より一層リハビリに努めるようになった。
『いつまでも、仕事をせずにいたら、本当に無能になってしまうだろうからね』
と、冗談めかして話していたが、彼が懸命にリハビリをしている理由を、傍で看病を続けるリザには分かっていた。
その時も。
そして、今も。
「……大丈夫ですよ」
リザは、立ち止まって空を見上げたままのロイに話しかけた。
慈しむような、笑みを湛えて。
「エドワード君は、きっと戻ってきます。皆…願っていますから」
あの、小さいけど強くて、だけど脆く繊細な、愛すべき存在。
彼と接した者達は皆、彼に惹かれていく。
その中には勿論、リザもいるのだが、最たる存在は、今、目の前にいる男だろう。
エドワードの、恋人だった、彼。
ロイは、一刻も早くエドワードを探すために、まず己の体を治そうとしているのだ。
自分が動けないと、何も出来ないと分かっているので。
全ては、突然自分の前から姿を消した、恋人を探すためにしていることだった。
そんな彼の気持ちを、リザは痛いほどよく理解出来た。
時折、戯れるように彼女の髪に触れてくるのも。
気づいたら優しい眼差しで見ているのも。
全ては、自分に向けられたものではないと、分かっていた。
彼が…エドワードがいた頃は、決してすることはなかった。
ロイは、リザの先に、いつも彼を見ていた。
それが、寂しくないと言えば嘘になる。
だけど、ロイには、以前のような覇気のある、『マスタング准将』に戻ってほしかった。
自分達を率いてくれる、信頼に値する上司に。
そのためには……
「エドワード君だって、戻りたいと思っている筈です」
「ああ……」
この世界に。
愛している、この世界に。
大好きな…人の許に。
愛されている…この男の許に。
(…こんな元気のない准将なんて、エドワード君も見たくないでしょうしね…)
顔を合わせれば、憎まれ口を叩き合って。
それでも、2人の間には、温かい雰囲気があった。
2人の姿を見ていると、安心できた。
だから。
(…早く、戻ってきて。エドワード君)
私達も、あなたを探すから。
あなたが戻ってくるまで…あなたの大切な人は、私達が守るから。
だから……
「…もう少し、歩きましょうか、准将?」
「ああ。まだまだ大丈夫だ」
ロイは笑って答える。まだ手には杖を携えているが、それが必要なくなるのも時間の問題だろう。
ロイとリザは、再びゆっくりと歩き出した。
(エド……)
ロイは、隣を歩く、自分より幾分低いリザの顔をちら…と見る。
(ここに…君がいてくれるようになるのは、いつなんだろうね)
以前は、お互い忙しくて、こんなにゆっくりとした時間を持つことはなかった。
短い逢瀬を楽しむことくらいしか出来なくて……。
だが、彼を見つけ出して。
再び会えたら。
その時は。
こんな風に、ゆっくりと歩いてみたい。
君と並んで。
その時、君は、少しは背が伸びているだろうか……。
ふと、そう思い、口元を綻ばせて、ロイは空を見上げた。
右目で、青い空を見上げた。
その向こうに、愛しい人がいるように思えて。
そっと見上げた。
ゆっくりと、歩きながら。
最終回、妄想大爆発!話第一弾です。私的には、こんなお母さんみたいなリザが好きなんですよね。2人を見守っているような…。エドが戻ってくるまで、悪い虫はつかせない!と見張って…もとい見守っていただきたいと願望丸出しで書きました。
ちなみに次は…(次があるのか?)エドの話を書いてみたいです。
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