『10』


 甘い時が終わった後は。
 大概、動くのが億劫になってしまう。

 それは、そうだ。
 あれだけ、エネルギーを消費する、激しいコトをした後なのだから。

 おまけに、その相手というのが、一応鍛え上げた軍人で。
 14歳という年の差はあれども、まだ成長途上の自分よりも、確実に体力がある男を相手としているのだから、勝負にならないことくらい、分かりきっていた。

 だから、今夜も。

 「……だるい」
 ぽつりと呟き、エドワードはベッドの上に突っ伏していた。

 もう、指1本動かしたくないくらい、疲れ切っている。
 けれども、身体は汗でべたついていて、気持ち悪い。
 体力的には勝っている恋人が、いくらか濡れタオルで拭いてくれて、幾分ましにはなっていたが、それでもまだ少し、気持ち悪かった。
 この不快感を解消するのには、風呂に入るなり、シャワーを浴びるなりが一番手っ取り早いのだろうが、自身でそれをするのは、はっきり言って辛い。
 先刻までの情事で、身体は言うことを聞いてくれないから。
 だけど、このまま寝るのは嫌で……。

 そう煩悶しつつ、ベッドの中でグズグズしていると。

 寝室の扉が開き、この家の主が入ってきた。
「エドワード」
「うん……」
 この家の主、ロイ・マスタングは、バスローブ姿で室内に入り、未だベッドに突っ伏している恋人を見て、苦笑を浮かべる。
 彼がこうなってしまった一因は、自分にもあるのだと分かりきっているから。
「…まだ、動けないか?」
「誰のせいだと思ってるんだよ…」
 だるくてつい、恨み言が出てしまう。しかしそれを、言われた当人は笑って受け流した。
 彼とのこういった遣り取りは、常のことだから。
「私のせいでもあるな。だから……」
 ロイはエドワードに近づき、シーツに潜り込んでいるエドワードを、それごとひょいと軽々抱き上げた。
「お、おいっ……!」
「暴れるな。落としたら怪我するのは君だぞ」
 すかさず言われては、大人しくならざるを得ない。そのまま渋々、ロイに抱かれて連れて行かされた所は。






 温かい湯が、全身を優しく包み込んで、疲れを癒してくれる。
 肌に触れる、湯気も心地よい。
 そして、バスタブにもたれてりのんびりとしているエドワードの頭を。
 幾度も、シャンプーのついた指が、動いていた。
「かゆい所はないか?」
「うん……気持ちいい」
 優しく髪に触れる指先が、心地よくて。
 つい、うっとりとしてしまう。
 情事の後。
 こうして、甲斐甲斐しくエドワードの世話をしてくれる時が、好きだ。
 勿論、その前段となる行為自体も、嫌ではないけれど。
 疲れ切った恋人の身体を、ゆっくりと丁寧に洗ってくれる、この優しい一時もまた、エドワードにとっては心地よい時間だった。
 特に、髪を洗ってくれる時は、最高に気持ちがいい。
 大きな手で。
 優しくマッサージするかのように動く10本の指は、うっとりしてしまうほどに、とても心地いい。
 目を閉じていると、つい眠りたくなってしまうほどに…。
 だから。

「……はい、終わり」
 髪を愛しげに梳いていた指が去って、少しずつ湯で泡が流されて。
 濡れた…艶やかな金の髪が現れてくると。

 エドワードは少し、がっかりする。
 気持ちいい、心地よい時間の終わりだから。

 もっと、触れて欲しいのに……。

 そう、心の中でこっそり思っている、エドワードの気持ちを知ってか知らずか。
 ロイは、軽くエドワードの髪を絞って、告げた。

「あと、10数えてから出て来るんだぞ」
 まるで、子供のように言い聞かせる。
 そう言わないと、すぐにでもエドワードが湯船から飛び出すことを知っているからだ。
「わかってるよ」
 少し膨れた顔で、エドワードが呟くと。
 ロイは苦笑を浮かべてバスルームから出て行った。
 そして、それを見計らってから、エドワードはゆっくりと数を数え始める。
「いーち……」
 数え終わった時に、再び恋人が、手にバスタオルを持って姿を現すことが分かっているから。

 バスルームでの甘い時は終わるけど。
 2人の甘い時は、まだ終わらないから。