…私は後輩達の為を思って来たんだが…。逆に混乱を招いてしまったようだな。
 だが、帰るわけにもいかないし、どうするかな…。


 立海大学附属高等学校1年のは、大きく溜息をついた。
 本人の目の前では、立海大学附属中学校男子テニス部レギュラー達によって「誰が最初にと試合するか」が議論されている。
 議論というよりは、ただの言い争いと言った方が正しいだろう。
 決定は下されることなく、むしろ事態は複雑になっていっている。
「誰が相手でも構わんから、さっさと決め…」
 がついに声を上げるが、途中で切られた。
「「どうでもよくないッスよ!先輩!!!」」
 切原赤也と丸井ブン太は勢い良く顔をに向け、必死な表情で言い放った。
 他のメンバーは、声を上げてはいないものの、二人の意見に賛成するようにを見た。
「これ以上、待たされるのはゴメンだ。私は帰る。」
 はそれだけいうと、スタスタと歩を進めようとした。
 レギュラー達は驚き、赤也とブン太は血相を変えての腕に飛びついた。
「ま、待ってくださいよ!先輩!!」
「そうッスよ!さっさと決めますからッ!!!」
 は左腕を赤也、右腕をブン太に掴まれ、動けず、また溜息を付いた。
 まるで小学生の子供を見ているような気分になった。(中学生も子供だが…。)
「なら私が決める。お前達に任せていたらいつまでたっても決まらない。」
 がそういうと、赤也とブン太はから腕を離し、目を輝かせてを見た。
 自分を選んでくれ、と目で訴えかけている。
「…丸井かな。」
「ええぇぇぇええぇえぇぇぇ!!!!!」
「やったぁぁぁあああ!!!!!」
「お前達うるさいぞ!!!」
 エコーでも起こりそうなほどの赤也の悲痛の叫びととブン太の喜びの叫びに、真田が一喝した。
 ブン太は喜びっぱなしだが、赤也は納得がいかないといった様子でに詰寄った。
「何で俺じゃないんっスか!先輩!!!」
 赤也の疑問に、はあっさりと答えた。

「一番早く終わりそうだから。」

 の言葉に、喜びの声を上げていたブン太がピタッと止まった。
 選ばれた理由が理由だったがために、少し涙目でのことを見ている。
先輩、ひでぇ…。」
 がっくりと肩を落としてコートにトボトボと歩き出すブン太を見て、は後ろから近づき、口をブン太の耳元に近づけた。
「喜べ、一番最初に最高のコンディションで試合ができるんだぞ?だからこそ、早く終わるんだ。一番強い私と戦いたくは無いのか?」
 少し低めの色っぽい声で、挑発的な言葉を発する。
 この言葉はブン太にしか聞こえてはいない。
 の言葉と声に、ブン太の涙はすっかり消え、代わりに頬が赤みを帯びていた。
「試合の前にウォーミングアップしないとな…。軽く走ってくる。準備していろ。」
「はい!」
 とブン太が何を話していたのか分からないため、何故いきなりブン太の機嫌が良くなったのか、周りにいた人間には分からなかった。
 ただ、がブン太に、何かを言ったということは、何となく予想がついたので、周りのメンバーは羨ましそうな目でブン太を見ている。
「さぁ、後輩狩りでも始めるかな。」
 は周りに聞こえないように言葉を発した後、走り出した。


 風が吹く。
 の髪を靡かせて、木々の葉を揺らす爽やかな風。
「…最高の私は、お前のモノだ。」
 の言葉は、風の中に消えた。



「ザ・ベスト・オブ・ワンセットマッチ!丸井・サービスプレイ!」
 黄色いテニスボールが、高く上げられた。










 十字架さんへの捧げモノです。
 すっごい不完全燃焼な気がするのですが、短編を書くのが苦手な私には、これが精一杯であります…。
 十字架さん、こんなの貰ってもどうかと思うんですが、貰ってください。
 体調に気をつけて、サイトの方も、頑張ってくださいね。

 [ Orange Card * ] 捺深鷲夜