『作品』である事に疑問は無かった。
 テニスが上手くなるのはとても嬉しく充実感がある。
 別に他の人に迷惑をかけるわけでもないし、『作品』になれば喜んでくれる人がいる。
 なによりも自分が『作品』である事を否定すれば困る人もいれば残念がる人もいる。
 そして自分が『作品』である事を否定すれば自分の力も否定するようで怖い。

輪状耳飾ヘノ想イ

 部活が終わり帰ろうと思って正門まで歩いていったが、忘れ物を思い出した。
 幸い、完全下校時刻までは時間がある。
 部室へ裏道の近道を通った。
 裏道は草取りをしていないのか雑草が不揃いにはえている、目立たない場所だ。
 なので知っている生徒はごく数人。

 俺は見つけた。
 草があまりはえていないところにシンプルな青系スプライト柄のポーチが落ちていた。
 よくタバコをいれるような大きさのがま口のタイプだ。
 拾ってみるとがま口の口が開いていて、中身がイヤでも見えてくる。
 中身は・・・・予想通りタバコ。
 先生方のものだろうか。
 この学校には不良というほどの暴れ者はいない。
「あれ、梶本クン?」
 後ろから声がした。
 俺は誰も居ない誰にも気付かれそうに無いような このような場所で このような物をもっていたので 何も悪い事をしていないけどその声に怯えた。
 ゆっくり後ろをみてみると・・・。
さん・・・・。」
 さんは同じクラスの隣の席の人だ。
 席替えは昨日行われて丁度さんのとなりになった。
 見ている限りにはちゃんと授業を受けて人当たりの良い真面目に見える人だ。
「落し物したんだけど見なかった?青系のしましまのがま口ポーチなんだけど。」
 言葉から俺の今持っているものは見つかってないらしい。
 青系のしましまのがま口・・・・。
 俺が今持っているのも青系のストライプ柄のがま口・・・・。けど、タバコ入り。
 しかも、自分の落し物とか言っている。
「コレですか?」
 俺は手に持っているタバコ入り青系ストライプ柄がま口ポーチをさんの方に差し出してみる。
「あっコレコレ!」
 声を弾ませて言った。そして俺の手からポーチをとった。
 その時にいつもは髪で隠れて見えないが髪が揺れて耳につけているリング型のピアスが見えた。
 タバコを持っているって事は吸っているのだろうか。
「中身・・・・見た?」
「えっ、あっ、まあ。」
 さすがにあんなものが入っているなんて知っていたら正直に「yes」かウソをついて「no」か迷う。
 でも、結局良心の方が勝り「yes」と言ってしまった俺はなんていうか・・・・。
 さんはタバコ入りポーチが落ちていた場所にドカッっと座った。
 よく見てみると日陰で座るに丁度いい石とかあってけっこう良い場所かもしれない。
「部活の帰り?」
「まぁ。」
「部活楽し?」
「はい。華村先生が良い『作品』にしてくれてとても充実してますよ。」
「フ〜ン。『作品』ねぇ〜。」
 とてもどうでもいいような顔をしていた。けれどどこかイヤそうな感じがしたのは気のせいだろうか。
「ねえ、敬語やめない?」
「えっ・・・はっ・・・でも、あんまり良くしらない人ですし・・・。」
 いきなり話が変わったのでビックリしたがなんとか答えることができた。
 そう、席替えをしたのは昨日。席が隣になった前もなった時も全然しゃべった事がない。
「敬語って同級生からされると気持ち悪い。」
「あっ・・・ああ。」

「『作品』って響きが悪いね。なんていうかさ・・・・人間味がないじゃん。」
 ムカっっとした。いきなりそんなことを言うのか。
 俺は一応『作品』と呼ばれるのに誇りを持っている。
 俺の苦労を解ってない人に響きだけで否定されるのは良いように思えない。
 怒りを持ったままでは俺はキツイ事を知らずに言ってしまうと思うので話をずらすことにした。
「ソレ、さんが吸うの?」
 俺はさんが持っている例のストライプポーチを指差しながら言った。
「まあね。・・・あっコレ誰にも言わないでよ!!」
「ああ。」
 ハッキリ言って先生方に言おうとも思ったがさんのことをなんとも思わないせいか言おうなんて思いもしなかった。
 これでなんとなく自分の中で整理が出来た。
 さんはいわゆる隠れワルだ。
「やめた方がいいよ。体に悪い。」
「別にいいじゃん。関係ない。」
 変わらない調子でさんは言った。言葉が少しキツそうに見えるが本気で言ったのではないと思う。
『関係ない。』
 確かに。珍しく俺は人の事を心配しているな。他人のことをどうこう言うなんて俺らしくない。
 でもなぜだろう。
 注意したい。タバコなんてやめて欲しい。
「ねぇ。」
「ん?」
「そんなに真面目に詰め込んでキツくないの?」
「はぁ・・・?」
 言ってる意味が良くわからない。
 真面目に詰め込みすぎ。そんなに俺は真面目だろうか。
「だってね、梶本クン見てると辛いってかキツそうにみえるよ。なんかさ、頑張るのはいいけどそんなに頑張ってなんでもかんでも真面目に詰め込みすぎると自分が壊れるよ。」
 なんだろう。
 ピアスつけてたりタバコ吸ってたりする隠れワルなさんにそんなこと言われてムカッッとするのが当たり前なのだろう。
「もうちょっとさ、そんなに重く周りを見なくてもいいんじゃないかな。」
 お前は周りを軽く見すぎなんじゃないかって思うのが今までの俺なのだろうけど。
「あっ、コレ見つけてくれてありがとう。なんかお礼しなきゃなぁ・・・。」
 またいきなり雰囲気がずれた。
 さっきまでは真剣な顔で俺になにやら言っていたのに今度は軽い明るい口調になった。
「あっ、コレあげるよ。」
 そう言ってさんは自分の左耳に手を掛けて慣れた手つきで何かをしている。
「ハイ。私がつけてたので悪いんだけどあげるものないし、コレけっこういいしあげるよ。」
「いや、いいよ。」
 たかがタバコを見つけたぐらいでこんなお金のかかってそうなシルバーアクセサリーのリング型ピアスを貰うなんて気が引けた。
 なによりもそのピアスがさんをひきたてていて似合いすぎていて取ってしまうのが惜しいと思ってしまう。
「いいよ、あげる。もし梶本クンが見つけてくれなかったら多分先生の手に行ってたし。あっソレともこんなのじゃいや?」
「そんなことないけど。」
 あまりにも悲しそうな顔をされるので『no』なんて言えなかった。
「コレ梶本クンに似合いそうなんだもん。」
「俺はピアスしないぞ。」
「いいの。でも、いつかして。絶対似合うから。」
 何を根拠にそんなにハッキリ言えるのだろうと少し笑えた。

 俺に似合う。
 俺よりも君の方が似合うだろう。
 そんなこと思ったけれど気恥ずかしくてそんなこと言えなかった。俺は若人じゃない。
 でも、ハッキリ言って似合うなんて言われて嬉しかった。
「だからさ、お礼として受け取って。あっそれともタバコがいい?」
「いや、そっちでいい。」
 俺はピアスのほうを指して言った。どんどん話がずれそうだったのでとりあえず貰うことにした。
「金はないぞ。」
「だからお礼だって言ってんじゃん。」
 それだけの事だった。

 でも、なぜだろう。
 こんなにもさんの事が残るなんて。
 ただの隠れワルのクラスメイトで隣の席になったばかりでタバコを拾ってあげた。
 なぜだろう。
 こんなにも『人間味が無い』なんて言われ慣れているのに君に言った言葉だけはこんなにも胸をつまらせるなんて。
 なぜだろう。
 こんなにも君に似合うピアスが俺にも似合うなんて言われて嬉しいなんて。
 なぜだろう。
 こんなにも君に近づきたいと想うなんて。

 それは君を好きだと気付くのにはもうしばらく時間が必要だった。
 俺はまだまだ君と同じ子供だったから。
「あっ、やっぱりそのピアス似合うね。」
「そうか?」
「でもさ、コレでセンセイのブラックリストに載ったよ。」
「別にいいさ。」
 このピアスをつけてみて今までの自分は無理していたって気付いた。
 規則とか先生の言う事を聞くとか。無理していたのかもしれない。
 俺の穴の開いた耳たぶを見て華村先生に注意されなかったわけじゃないけど今の俺は昔の俺以上にショックとか責任を感じる事はなかった。
 このピアスが善だとは確実に言えないけど、俺は気に入っている。
 君にピアスを貰えて、君と話して自分が変わった、なんて言ったら驚くだろうな。
 このピアスは前まで君がつけていたなんて思うと、銀で出来ているはずなのに触れている手が暖かくなった。
 いろんな先生方に注意されたけれど俺はピアスをしているのも含め今の自分を気に入ってるし昔の自分より好きだ。
 もちろん、君を好きだと気付き、実はワルな君を好きな自分も好きだ。
 そんな自分よりも君を想ふ。


2004.09.12



あとがきという名の言い訳
 梶本ドリで同級生設定でということでかかせてもらいましたがいかがでしょう?
 鷲夜さんの思う夢になっていないかもしれませんが精一杯頑張ってかかせていただきました。
 時間がかかってしまい申し訳ありません。
 題名がおかしくなってしまいましたがあまり気になされないようお願いします。
 どうも私は題名をつけるのが苦手のようで・・・(;´Д`A ``。
 鷲夜さん2600キリバンgetありがとうございました。


有難う御座いますッッッ
 毎日通ってはカウンターを踏んで迷惑をかけてしまっておりますっ
 リクばかりしてナタデココさん達にご迷惑かけてばかりッッッリクしたいという欲には勝てませぬッッッ
 本当に有難う御座いました。



CLOSE