クラスに転校生がやってきた。名は朽木ルキア。たぶん人間じゃない何か。
 何かまでは分からないけど、きっと害は無い、ハズ。だからこれで、いいはずなんだ。


軋んだ心に響く、遠い声


 私には、普通の人には見えないモノが見えた。でも、見えないフリをしてた。
 私は普通でありたかった。普通に生きて、普通に死ぬ。
 この世に生まれたのなら、当然の権利だと思う。"特別"なんて、望んだ覚えは無い。
「関係、ないもの。」
 それに見えるだけで戦えるわけでもないし、特別なことができるわけでもない。ただ見えるだけ。
 もしかしたら何かできるのかもしれないけど、面倒だし、怖いから試してみない。
 もしできたら、抜け出すことができなくなりそうで怖かった。
 自分は"普通の人間とは違う"ことを認めてしまうような気がした。
「アタシは、普通の人間だもん。」
 そう、言い聞かせた。

 ルキアが転校してきて数週間がたった。
 クラスが一緒ってだけで、特に交流することも無かったから、話をしたことも無い。
 できるだけ関わらないようにしようとしていたけど、同じクラスだとちょっと無理だった。
ー、これ朽木に渡しといてくれー。」
 越智先生に荷物渡しを頼まれ、断るわけにもいかず、素直に返事をした。
 荷物はプリント類で、別に話をしなくてもただ渡せば良いものだった。
「関係ないよ、ただ渡すだけだもんね。」
 独り言をブツブツと言いながら誰もいない廊下を歩く。お昼時で、笑い声とかが沢山聞こえる。
 教室に戻ってあたりを見渡したが、ルキアは教室にいなかった。
「…ここ以外に行くとこって、屋上か中庭かな?」
 とりあえず屋上に行ってみようと、はプリントを片手に階段を上がっていった。
 重たい屋上の扉を開けると、そこにはルキアの他に一護やその友人達が昼食を取っていた。
「あれ?どうしたの、さん。珍しいね、屋上に来るなんて。」
 全員の視線がに注がれる中、小島水色が口を開いた。
「朽木さんに届け物。越智先生にプリント頼まれたの。」
 ヒラヒラと手に持つプリントを見せながら、笑う。表向きに、笑みを作る。
「まぁ、助かりましたわ。有難う、えっと…さん?」
 いつものつくり口調で、先ほどの水色の言葉からの名前付でお礼を言うルキア。
 は何も知らないフリをして、"どういたしまして。"と笑みを浮かべてルキアにプリントを差し出した。
 だが、ルキアが差し出されたプリントを右手で掴んだ瞬間、パチッと電撃のようなものが二人の間に走った。
 もちろん、普通の人には見えていない。
 そこにいたとルキア、一護だけが見ることができた。
「ッ…じゃぁ、朽木さん、確かに渡したからね!」
「え、えぇ。有難う。」
 は少し躊躇ったものの、何事も無かったように言った。それにルキアも同調した。
 "じゃぁね。"とは早々と屋上を出た。
「今のは…。」
 が屋上を去った後、ルキアは、プリントを受け取った右手を見つめた。



「…なんでなのッ…。」
 は屋上を出てから一気に階段を駆け下り、誰もいない裏庭へと来ていた。
 カタカタと震える両手を戸惑った目で見つめた。
「ッ…そんなことないッ!アタシは、普通の人間なんだからッ!何とも関係ないッ!!!」
 木にもたれ掛かって、必死に自分を抱えた。
 認めるのが怖かった。普通とは違うのだと、認めるのがとても怖かった。
 ルキアとの間にあった電撃も、何かの間違いだと、は認めようとはしなかった。
「…大丈夫、…大丈夫、大丈夫だから。アタシは、大丈夫。」
 言い聞かせるように"大丈夫"と繰り返すと、ゆっくりと教室に帰っていった。


「なぁ、何だったんだよ。昼間のアレ。」
 帰り道、一護は周りに人がいないことを確認すると、ルキアに疑問をぶつけた。
 昼間のアレとは、がルキアにプリントを渡す際に起こった電撃のことである。
「…分からぬ。ただ、ヤツにはどうやら霊力があるようだ。」
「霊力?でも、からは何も感じなかったぜ?」
「私もアレで初めて気づいたのだ。…ヤツは一体、何者なのだ。」
「…、…分かんねぇ…。」
 それから二人は、自宅まで黙ったままだった。

「嫌だなぁ…。」
 は帰宅後自宅で夕飯の準備をしながら、昼間のことを考えていた。
 ルキアとの間に起こった電撃が何なのか、には全く分からなかった。
「朽木さんは、人間じゃない。だととしたら、一体何?…もう、訳分かんないよ。」
 ハァ、とため息をつきながら、作っている夕食の味付けをしていく。が。
「アレ?お醤油がない。まだあると思ってたのに…。」
 空になった醤油のボトルを見ながら呟くように言葉をこぼした。しかし、他に代用できる調味料は無い。
 もう一度ハァ、とため息をついてエプロンを外した。そして財布を片手に、自宅を出た。

「良かった。お醤油安くなっててラッキー。」
 昼間のことでテンションが下がっていたにとって、いつもより醤油が安いという何気ない小さな幸運はとても大きな幸運だった。
 ちょっと上機嫌で自宅へと向かう
 しかし、一度不吉なことが起こると、どうやら連続して起こるらしい。
『ヒヒヒ…、旨そうな人間の匂いがする。』
 気味の悪い、人間とはかけ離れた声。が振り返って見たモノは、バケモノ。
 姿・形は違うが、確かにが見たことがあるモノであった。
「…旨そうな人間って…、アタシ?」
 震える声で、搾り出すように言うと、目の前のバケモノは嬉しそうに口端を吊り上げた。
『そうだ、お前だ。お前のような魂魄は初めてでなぁ、食うのが楽しみだ。』
 の心は、恐怖でいっぱいだった。手に持っていた財布とスーパーの袋は自然と地面へ落ちる。
 目の前のバケモノへの恐怖と、そんなモノが見える能力を持つ自身への恐怖。
「ア、アタシはッ!アタシはただの人間よッ!周りと何も変わらない、ただの人間よッ!!!」
 震える足を必死に立たせて、怯えた目で訴えるように、叫ぶようにバケモノに向かって言い放った。
 そんなの言葉を、バケモノは笑い飛ばした。
『そこらの人間と同じはずはない。でなければ俺が見えるはずはない。』
「違うッ!!!」
 叫ぶように、泣き叫ぶように、まるで、"違うこと"を否定するかのように、は声を上げた。
『まぁいい。何であろうと、お前はここで俺に食われる。』
 嫌らしい口調で、嬉しそうにに手を伸ばす。
 それを見たは"来ないで!"と叫び、拒否するように両手をバケモノへと伸ばした。

そして、そのバケモノは消えた。

 が意識して何かをしたわけではなかった。ただ怖くて、我武者羅に拒否しただけだった。
 なのに、バケモノは急に消えた。
「なんだ今のは。」
 が呆然として立っていると、後ろから、昼間聞いた声が聞こえた。
 驚いてが勢いよく振り返ると、目を見開いてを見ているルキアと、死覇装姿でルキアと同じような表情をしている一護が立っていた。
 そしてそれを見たも同様に、目を見開いて驚いた。
「なんで…、朽木さんと黒崎君、ココに…、それに、黒崎君の格好…。」
 の声は振るえ、瞳は恐怖と戸惑いを隠さずに表していた。
「先ほどここにいた虚を昇華するのために来たのだが、貴様が…。」
「ほ、ろう…?昇華?…なに、それ。アタシ、そんなの知らないッ!!アタシが、アタシが何?アタシ、何もしてないし、何も知らない!!!」
 ルキアの言葉を遮るように、の言葉は震えた弱弱しい声から、だんだん叫び声に変わっていった。
「しかし現に貴様は虚を倒した!これは間違いなく死神とは別の…。」
「違うッ!!!アタシはッ、アタシは人間よッ!みんなと何も変わらない、ただの人間よッ!!!」
 の必死な勢いに、ルキアは続きを、死神とは別の特別な能力があるのだと、言うことができなくなった。
 は財布と袋を拾い、振り返ることなく駆けていった。


「…アタシは、人間だもの…、何も、何もできない、無力な人間だものッ!!!」
 自宅に到着してドアを閉めると、その場に崩れ落ちて、自身を抱えた。
 の心の叫びは治まらない。今日起こった色々なことがの頭に浮かぶ。
「…関係、ないもの。アタシは、無関係な人間なんだから。」
 何とか落ち着こうとするが、心の中に聞き覚えのある、でも知らない声が響いた。

           もうじき、目覚めの時が来る。










 …何だか、ヒロインがミーア・キャンベルみたいになってしまった…ッ!そんなつもりはなかったのに…、汗。おそらく、このままBLEACHのヒロインはこの子で固定になるんだろうな…。書きやすくて楽しいけど。