今日は待ちに待った体育祭。
皆、朝から大騒ぎをしている。
もちろん、あたしも例外では無いわけで・・・。
□■□体育祭の後は□■□
「ねぇねぇ、ワカト君、何に出るんだって?」
聞いたのは悪友の。
「さぁね。知らない。」
素っ気無く答えるあたし。
「あんた、彼女なのに知らないの?チェックしとけばいいのに。」
「別に。あたしが応援しなくても、あいつの応援してくれるコなんか、いっぱいいるじゃない。」
「ふぅん。やきもちやいてるんだ。」
「やいてないっ!」
「あっ、ムキになってる。」
いつもこうやってあたしをからかうんだ。コイツは。
話題になっているのは、あたしの彼氏で、我が校のテニス部のエースのことである。
でも、本当に恋人同士なんて言えるのかはあやしいけど。
仕方ないのかもしれないけれど。
何せ、彼は結構イケメンで、運動神経抜群という、まぁ、女の子にモテる要素を兼ね備えたヤツなのである。
でも一応あたしが彼女なんだから、もう少し他の女の子とチャラチャラするの控えたっていいじゃない。
だから、試合を見に行ったこともないし、こういう行事も、いちいちチェックしていない。
アイツの周りには、いつも女の子がいるんだもん。あたしはその中に入っていけない。
「言えばいいじゃない、ワカト君に。」
「何てよ。『あたし以外の女の子と話しないでぇ〜。』とか?」
「そうそう、彼女なんだから、ちょっとくらい我がまま言ったっていいじゃない。あんたは遠慮しすぎなのよ。ふつう女は、ブリッ子だろうがなんだろうが、気を引こうとするもんでしょ。」
「はね。」
はテニス部の部長と付き合っている。
あのかたそうな部長とが、なんでつきあってるのかは、謎だけれど。
やっぱりあたしの気持ちと同じなんだろうなぁ。
『好きだから。』っていう強い気持ち。
「ほらっ、いくよっ。」
「えっ?どこへ?」
「馬鹿ねぇ。今、放送あったじゃない。」
「えっ。嘘。何?」
「全校生徒、グラウンドに集合だって。」
はあたしの手を引いて走っていく。
「開会式サボろうよ。」
「もう、サボったわよ。種目始まってるのよ。」
そんなにボーっとしてたのかなぁ、あたし。
グラウンドからは、歓声が聴こえる。女子生徒の黄色い声もあちこちから飛んでいる。
きっと、テニス部の誰かが競技に出ているんだろう。
「次じゃないっ、あたしたちが出るの。」
「えっ?もう?」
「そうよ!急いで、。」
「うん。」
あたしとは一緒に二人三脚に出る。
は運動神経が抜群に良く、今日の体育祭でも、何種目か掛け持ちしている。
逆にあたしは運動音痴で、今日の体育祭も、種目には出ずに、係りだけやるつもりだったのに、人数がそろわないとかで、かりだされてしまったわけである。
それでも種目が二人三脚で、相手がだったからまだ良かったのだけれど。
あたしたちは急いで靴を履き替え、外に出た。今は、男子100メートルをやっている最中らしい。
パンッという音とともに、いっせいにスタートした。
その中には、見覚えのある、オレンジの髪の毛のあいつもいた。ものの数秒。一番でゴールしたあいつ。
「。ほら、急ぐよ。」
「うん。」
につられて、スタート地点に急いだ。
二人三脚は、結構練習してる人も多く、息の合う人同士だったりなんかすると、めちゃめちゃ速いっていう人たちもいる。
息が合ってなくて、コケたりする人も続出するけれど。
でも、その点では問題の無いあたしたち。
はなんだかんだ言いつつも、結局はあたしと同じ速度で走ってくれるし、結構息は合う。と、あたしは思っている。
「、ワカト君、カッコ良かったね。」
「速いよね。」
「あのテニス部のエースだからね。」
「部長さんは?」
「100メートル走と、1500メートル走。後は、部活対抗リレーと、ベストメンバーリレー。因みに、係りは得点記録係。」
よく覚えてるなぁ、なんて、感心してしまった。
「やっぱり、いくつも掛け持ちしてるんだ。」
「そう。だけど、ほとんど種目があたしと重なっちゃってて、見られるのは係りの仕事やってる時とか先輩が応援してるとことかだけなんだけどね。」
「ふぅん。大変だねぇ。」
そんなおしゃべりをしている間に、あたしたちの番は、次にせまっていた。
前の列の6チームが、ピストルの音と共に出発した。
「ほら、。行くよ?」
「うん。」
次のピストルの音を待った。
『用意!』 パンッ
ピストルの音が鳴り、あたしたちは走り始めた。
6チーム中3番のあたしたちは、着々と前のチームを抜かしていく。
それでもあたしの目は、100メートル走を走り終わって、応援席に向かっていると思われる、あいつを横目で探していた。
1番でゴール。
「よっしゃ!」
はガッツポーズをする。
あたしたちは、お互いの足をつなぐ紐をほどくと、1と書かれた旗の前に立たされた。
あたしはキョロキョロと周りを見る。あいつはどこだろう。
こんなとき150cmの身長がたまらなく嫌になる。遠くまで見渡せない。
探すのをあきらめて、目線を前に戻すと、そこには探していたあいつがいた。
観客席の方から、笑って手を振るあいつ。
明らかにその視線はあたしに向けられたものだろうけれど、ファンのコにはそうではないらしく、みんながみんな、自分に手を振っていると思い、満面の笑みで、手を振り返している。あたしも一応その中で、小さくあいつに向かって手を振り返してみる。
「良かったじゃん、。」
「うん。」
二人三脚が終わり、あたしたちが退場した後、すぐに次の種目が始まった。
「やばっ!あたしこれも出るんだ!」
昼食を一緒に食べる約束だけ交わして、は次の種目をしに行った。
とりあえず何の種目もないのであたしはグラウンドとは反対側の、人の来ない木の下で休むことにした。
係りの仕事を始めるにも、まだ時間がある。
あたしの係りは救護。保健委員なので必然的にこの係りになったのである。
「ふぁあ。」
あくびをひとつして、うとうとしてきた。
あたしは木に寄りかかって、一眠りすることにした。
あたしがうとうとと眠りに落ちようとしたとき、後ろから誰かに肩をたたかれた。
驚いて後ろを見るとよく知る整った顔立ちのあいつがいた。
「何?」
眠りにつくところを起こされたあたしは、不機嫌な声で言った。
「ごめん。起こしちゃってサ。今日の体育祭が終わった後に後夜祭があるじゃん。だから、屋上に来てよ。待ってるから。」
「えっ、何?」
あたしが答える前に、あいつはスタスタと歩き始めてしまった。
「ちょっ、ちょっとっ!」
あたしの呼び止めるのも聞かず、後ろ向きに手を振りながらグラウンドに戻って行った。
久しぶりに話した気がする。
後夜祭で屋上?どんな意図があるのかはわからないけど素直に嬉しかったから、まぁ、いっか。
いつの間にか、後夜祭を楽しみにしている自分がいた。
救護の係りをやっているときも、応援をしているときも、と一緒にお弁当を食べているときも。
ずっと、嬉しくて、ドキドキワクワクしていた。
「何?どうしたの。にやけちゃって。もしかして、いいコトあった?」
「んふふ。わかる?」
「あんた見てればね。」
「実はねぇ。」
「ワカト君関係なんだ。」
「うん。」
何でわかったの?
そんなにわかりやすい顔をしていたつもりはないのに、にはいつもばれてしまう。
「良かったね。」
「うん。」
「楽しみだなぁ〜。」
午後もうきうきした気分で進んでいった。係りとの応援と。どんどん種目は進んでいった。
「お疲れ、。」
最後のベストメンバーリレーが終わり、閉会式を迎えた。
いつもは嫌いな先生の長い話も短く感じられた。閉会式が終われば、後夜祭の準備が待っている。
後夜祭は文化祭の後にも行われるが、体育祭の後夜祭はグラウンドでキャンプファイヤーをして、皆でフォークダンスを踊る。
基本的に後夜祭は自由だから、踊ったり、唄ったり、おしゃべりをしたり。色々な生徒がいる。
屋上も開放しているのに、やってくる人は一人もいない。
そして、いよいよ後夜祭が始まった。あたしは真っ先に屋上に向かった。
あいつはまだ来ていなくって屋上にはあたし一人だった。
「早く来ないかなぁ。」
9月も中ごろにさしかかり、そろそろ夜は涼しくなり始めた。あたしは上下ジャージを着用している。
キャンプファイヤーを見おろして、フェンスの近くに腰を下ろした。あいつはまだこない。
下から、キャンプファイヤーをやっている子達の声が聴こえてくる。
カタンと音がして、ドアが開いた。
オレンジ色の髪の毛とトレードマークの帽子。テニス部のジャージに身を包んだあいつ。
「遅い。」
頬を膨らませて、怒ったフリをしてみせる。
「ごめん、ごめん。」
「なんてね。怒ってないよ。」
笑ってみた。
「部長にさぁ、がいるのに他の女の子に囲まれてチャラチャラしてたんじゃ、嫌われるぞってさ。言われて。そういえば、自分から寄ってったワケでもないけど、そうかなっておもうから。ほんと、ごめん。」
いきなりの謝罪に驚いて、彼の顔を見た。
「ううん。こっちこそ、そんな風に思ってくれてるの、知らなくって、試合とかも見に行って無かったのに。あたしも、ごめんね。」
彼はほっとした様子で、あたしを見た。
「そうだ、キャンプファイヤーで踊らない?」
「うん!行く!」
「よし、決まりっ!」
あたしは彼に手を引かれ、走って下に向かった。
つないだ手があったかくって、何だか安心した。
体育祭の後は、後夜祭がある。
いつからか『屋上で告白してそのあとに一緒にフォークダンスを踊るとそのカップルは幸せになれる』なんて噂が流れ始めるのだが、それはもう少し先の話。
CLOSE