『国民の健康と療養費支給の可能性』

(一部要旨)

井上英夫・金沢大学法学部教授

日本鍼灸マッサージ新聞 02.04.10.

 日本の歴史のなかで新しい時代の変化が起きそうです。裁判をめぐる状況が変わりつつあり、社会保障に関する訴訟で人権を訴える側が勝つ事例が増え、人権保障に追い風が吹いています。今回の裁判も、職業利益だけを求めるのではなく、患者の「健康を享受する権利」を守るという覚悟で臨めば勝つことができるでしょう。患者が鍼灸治療を受ける権利を奪われ、必要な医療が受けられない。鍼灸への差別は、患者への差別なのです。
 受領委任を勝ち取るのは大きな成果です。しかし、「柔整と同じにしろ」と主張するだけだと、柔整を引き下げて鍼灸と同じ扱いにするということも考えられる。サラリーマンの自己負担が国保に合わせて3割になるように、80年代からの社会保障制度は低い方に合わせる低位平準の傾向にあります。では、どうすればいいのか。鍼灸を西洋医学と対等な医療と認めさせ、現物給付としての療養の給付を認めさせなければならない。現在、鍼灸、柔整は現金給付としての療養費の給付が認められているが、これは例外であって、お恵みでしかありません。もっと大元にある大きな差別を視野に入れてこそ、国民の健康を守る力といえるのです。その覚悟がなければ勝てない。
 憲法25条の健康権を具体化したのが健保法で、健保法を具体化する仕事が皆さんの仕事です。免許は人権を保障するに相応しい者に与えられるもので、それを持つ皆さんは福祉に寄与しなければなりません。一方、国民には健康を享受する権利があり、そのために最高の医療を受ける権利があります。最高の医療には患者の自己決定・選択の自由という要素も含まれ、西洋医学に足りない部分として国民の健康を守る意義のある鍼灸を、国民が自由に選択できない現行制度は不合理といえます。理屈にかなうように制度を変えなければなりません。
 大きな視野と展望が必要とされる今回の裁判は、21世紀の医療だけでなく、社会そのものを作りかえる裁判です。

日本鍼灸マッサージ新聞へ

研修会記録目次へ

はり・きゅう・マッサージのひろばへ