
はり師 堀口 隆 l
日本鍼灸マッサージ新聞 02.10.10.
盲(めしい)妻 吾子(あこ)の寝息に 耳すます![]() 東洋医学の歴史は古く、二千年とも三千年ともいわれています。このため古典にしたがえば、病人の診察には器械器具を用いないで、治療師の五感によって行うのが原則です。診察法は四診といって「望 聞 問 切」すなわち、見ること 聞くこと たずねること 触れてみることであります。このうちの聞診というのは、病人の息づかい、声、話し方、咳などの状態を聞き分けたり、口臭や体臭、時には汗や尿など排泄物の臭気を嗅(か)ぎ分けて病状の把握に役立てるものです。 わたしのように望診のできない治療師が病人の第一印象や立ち居振る舞いの様子を知る上で、この聞診は大きな手助けになっています。 具体的には声の高低、清濁、声に力、つや、張りがあるかどうか。話し方の明瞭さ、早い遅い。呼吸の速さ深さ、乱れ、雑音の有無、咳をすれば、空咳(からぜき)か、痰のからむ咳かなどを注意深く聞き分けます。これによって一般的な健康状態、例えば、元気の有る無しがわかります。咳やゼーゼーから呼吸器病の存在がわかり、不明瞭な発語からは口中の病気や脳内の異常を知ることができるのです。 では、わたしの治療記録から息づかいに関する症例をいくつか紹介してみましょう。 81歳のおばあちやんが全身疲労と左肩のこりを訴えて、治療にみえました。元気のない声で「ああ ああ」とあえぐような息づかいをしていました。左の首から肩、肩から背中へはりをし、右側にもほぼ同様の処置をしました。さらに伏せてもらい、腰痛の治療もしましたが、そのころには呼吸は静かに深くなっていました。 このほか、親戚のお葬式の後、寝不足と過労からノイローゼ状態になり、不眠と食欲不振であえぎ呼吸だった70歳の主婦、書きものに追われ、寝不足から疲労こんばいの59歳の男性、炎天下で新幹線からはき出されるゴミの仕分け作業をしている52歳の男性、など皆あえぎ呼吸でした。 わたしたちの身体は特別な病気がなくても、寝不足が続いたり極度に疲労すると、全身の力が抜け筋力が低下します。呼吸に関係する胸や背中の筋肉群が十分に働かなくなり、呼吸は浅く、速く、乱れてきます。空気の吸い込み量が減り、身体は酸素不足に陥り、あえぎ呼吸になってしまうのです。 このように息づかいは全身状態をよく現わします。そしてまた、いま行っている治療が有効か無効かを確かめる、大変便利な目安にもなるのです。 |
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