経絡治療学会夏期大学
 講師・池田政一
普通科『診断学総論』より
望診について(一部要旨)

日本鍼灸マッサージ新聞 01.8.10.

 古典医学でいう診断のひとつに望診があります。現代医学では視診といいます。望診では、パッと見たときの印象、全体の雰囲気みたいなものを診ます。待合室から治療室に入ってきてベッドに上がるまでの状態を診ます。『神を診る』といいますが、体のなかの気血そのものの陽気の状態を診るのです。
 具体的にいうと顔面の光沢を診ます。人間の顔面の光沢は両側からなくなっていき、最後に鼻の頭に光沢が残ります。光沢がありすぎるのも病気で、全くないのは死相です。光沢がありすぎるのは脂ぎっているということで、体のなかの熱が旺盛で、腎の津液がなくなるとテカテカ光るのです。つまり、脂ぎっている人は腎虚といえます。それも腎虚熱証。慢性的な腰痛などを訴える脂ぎった中年男性は、腎虚と考えて間違いないでしょう。
 腎は津液である程度の堅さに固まっています。年とともに腎が虚してくると堅くなくなるのですが、これは年齢的に仕方がないことです。緩むのは水がなくなるからで、熱が発生します。それを証でいうと腎虚熱証となります。熱は臍の下で発生して上へ昇り、心臓にくると高血圧、頭まで昇ると脳溢血になります。胃で止まると、胃の熱になるので食欲旺盛になります。そうすると食べる、食べたら太る、中年になれば太るというのはこういうことです。太った中年女性は見ただけで腎虚証とわかります。男性も肥満の人は腎虚証です。これが望診のひとつです。
 もうひとつは体質を見分けていく方法があります。『肝は血を通す』といいますが、蔵血作用のことです。肝は血を貯蔵します。生長収蔵の生で、疏泄ともいわれます。疏泄とは通りをよくして流すという意味です。春にものが芽生えると思ってください。それは血の力だというわけです。春になると気持ちがウキウキするのは正常なことで、脈を診ると関の脈がやや虚しがちに診えます。春でもないのに年中そういう脈を打っている人は、体質として肝虚の傾向があるといえます。それを見分ける方法ですが、肝の状態は目の大きさで診ます。目の小さい人は肝の貯蔵する血が少なく、体質的に肝虚の傾向があります。切れ長の目の人は肝虚証、とくに熱証です。目の小さい人は寒証が多いです。大きな人は肝実です。目の大きさは肝の貯蔵している血の多さに比例しています。
 耳は腎の状態を現します。『腎の志は恐』です。腎虚で典型的なのは、へりくだった態度をとることです。恐いからです。腰が低いというのは腎虚なのです。人間ができているというのも、年をとると腎虚になるからかもしれません。耳の大きさは腎の大きさに比例し、腎がしっかりしていると志もしっかりしていて、人間に落ち着きがある、ストレスに強いといえます。『腎は精と志を蔵す』という通りです。耳が前の方に倒れているのは腎が弱っていると考えてください。腎に貯蔵している津液が少なくなり熱が発生すると耳は黒くなります。
 口は牌・胃に関係します。口の大きさは胃の大きさと考えてかまいません。大きい人は体質的に胃熱が多く、食欲旺盛です。唇の厚い人もそうです。胃腸に熱が多い人にはおしやべりで歌うのが好きな人が目立ちます。
 また、口唇は急性病を現し、とくに子供の場合は口唇を診ることが役立ちます。口唇が赤ければ胃に熱があるということで安心して治療できますが、白い場合、それも下痢をしていると、胃腸が冷えているので注意しなければ治療を失敗します。
 次は肺です。肺は皮毛を主ります。現在でいう皮膚の体温調節です。皮膚にある@揩ェ外界の気温の状態に応じて閉じたり開いたりして体温を調節します。その原理の開け閉めが休質的に鈍い人がいます。
 皮膚の色が白く体毛の多い人、髭面の人、女性なら産毛の多い人などです。胸毛の生えている人は体質的に肺虚証になりやすく、肩背部に産毛の生えている子供は風邪をひきやすいです。弱いところ、@揩フ開閉が鈍く冷えやすいところに毛が生えてくるのです。子供のころによく扁桃腺を腫らした人や、肺大腸の関係から冷たい物を飲むとすぐ下痢をする人が、肺虚の体質には多くいます。
 最後に心です。経絡治療では心虚証はないとしています。『心は血を生ず』というように、いつも動いて血をめぐらせているので、陽気が旺盛です。その旺盛な陽気がなくなると、それは死ですから心虚証はないということになります。しかし、心臓が熱を持ち過ぎると高血圧や心臓病になるので、少陰経がそれを冷まし制御します。心臓が熱を持ち過ぎた患者には少陰経を補ってあげればいいのです。この状態を望診でいうと、顔面の眉間、舌の状態に現れてきます。眉間の少し上のところがいつも赤い人は、心臓に熱を持っています。興奮すると顔が赤くなるのも血圧が上がっているからです。舌も赤くなります。
 望診とは、体質的傾向も分かり、現在の寒熱の状態も分かるものです。患者を診たときは、顔の状態と症状を結びつけて覚えてください。

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