『鍼で心を治せるか―超浅刺の世界―』

第29回日本伝統鍼灸学会学術大会教育講演
  日本伝統鍼灸学会会長 首藤 博明

日本鍼灸マッサージ新聞 0111.10.

 心の病のなかで最近多いのは、精神的な疲労です。鬱病やいろいろな精神疾患の入口にあたるもので、その治療法は現代医学にはありません。ところが、東洋医学には素問・霊枢にも疲労の対策が出ています。
 疲労にあたる古典の言葉は「虚労」といい、五臓の気が虚してくると疲れが出るとしています。また、鬱を探ると、の経脈篇に「一人戸ヲ閉ジ窓ヲ塞ギテオル」とあり、2000年前には中国に鬱があったようです。そして、心の病をどう解釈しているかというと、鍼灸甲乙経の第1巻に精神五臓論というのがあり、「心の座は五臓にあり」といっています。心は神、肺は魄、肝は魂、牌は意智、腎は精志と、それぞれが微妙に違うやる気を蔵していて、そのやる気が減って鬱になるのです。
 鬱の脈は沈脈で、脈状は軟細微沈。脈証としては、肺虚証、脾虚証が多いです。治療には、非常に浅い超浅利をし、そして、あまり多くのツボを使い過ぎないほうがいい。灸は失眠穴と、督脈に反応があったときにはここにも使います。脾経と肺経が重要で、肺虚証のときは太淵を使います。
 超浅利はとてもいいものです。とくに倦怠感、だるさを取るには一番です。すぐに取れます。つぎに、精神神経科への影響があり、気分が明るくなります。心がよくなると肉体の症状もあまり気にならなくなるので、仮面鬱病にも最適といえます。五臓を調整することで、不調和のために隠されていた人間の本来の善なるものを引き出し健全な精神になるのです。
 では超浅利の説明をしましょう。接触鍼と浅刺の中間、約0・5ミリの深さとしています。人さし指は固定して鍼柄を親指で4分の1回旋させます。できるだけ速く400回くらい回旋させます。効いたらグッと重くなってきて、そうしたら抜鍼。使う鍼は1寸02番3a12号。使い慣れたものでもいいですが、短いほうが素早くできます。
 21世紀は心の時代です。若者がすぐキレるとか、赤ちやんが泣くと虐待するとか、これを鍼で治せないかというのが、私の雄大な考えです。西洋医学では心と身体の二元論ですが、東洋医学は心身一如です。臨床では一つと考えるほうが正しいでしょう。西洋医学も最近は心療内科など東洋医学の考えに近づいてきていますが、2000年も前にこのことを指摘し、しかも処方箋も用意され、そして今後何千年も通用するとは、東洋医学は本当に凌いと思います。心の病の治療は古典を除くと鍼灸の世界でもあまり手をつけられていなかつた。なぜかというと、鍼が深過ぎたからだと思っています。そして、超浅利を広く利用し治療しているうちに「鍼は人の心を治す」のではと思うようになりました。
 最後に、「開業鍼灸師は生き残れるか」ということです。それには運動器疾患にこだわらず、心身症、内臓疾患など他の分野へも手を広げる。超浅利による治療を行う。「気至る」を体得する。「忘己利他」つまり「人のために」という精神をもつ。この4つを備えれば必ず生き残れます。抑鬱患者は多く、日本人の3分の1は鍼の適応症といえるでしょう。鍼灸はいろいろな分野に応用が利き、宝の山です。

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