幸村からの贈りものが届けられた。それは、嬉しかった。
笛だった。
意外だと思い、次にそう感じたことに驚いた。
珍しいものだとか、名の知れた名品だというわけでもない。
飾り気のない、新しい。
だが何故だろう、と首を傾げる。
今まで、そんな話をしたことなどあっただろうか?
幸村の前で吹いてみせた、という覚えもない。
そもそも、別に上手いとか、実は隠れた才能だったとか、そういう訳でもないのだ。
ならば、幸村が笛を嗜むのか。そんなこと聞いたことないが。
とはいえ全く興味がないとも聞いたわけじゃない……訊いたことがない
なんだろう、意外だ。
兼続は、なんとなく落ち着かず、手紙でもないかと包みを探ってみる。
やはりない。
なんだ、ちと薄情じゃないか? と思わず零れるため息。
まあ、その内にでも会いにくるつもりなのだろう。
ならば他に何か知らせが届かなかったか、と兼続は立ち上がった。
付き合いの長い主は、話を聞いた後に首を振り、
「……聞かせてくれ、ということではないか?」
そういって目を閉じる。
促されて、兼続は横笛を手に取った。
口をつけ、なんとか思い出しながら指を添えていく。
ゆっくりと高い澄んだ音が響く。
思っていたよりもずっと、良い笛ではないか。
(聞かせてくれ、か)
そうだろうか
ならば……言いたい。
そんなこと、こっちが言いたい。
知らなかった。
幸村は、時折にでも奏でたりするのだろうか
どんな音色で
誰かに聞かせたりしたのだろうか
形のない音は、流れてすぐに消えていく。
一通り奏でて
「……変な音だな」
向かいに座った景勝の実に正直な感想。
ぴぃぃ、と音が漏れた。
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「兼続殿、おみやげです」
「え?」
突然突き出された右手に、思わず手を伸ばして答えていた。
「つめたっ!?」
小さな欠片は、乗せられてすぐに溶けて消えてしまう。
ぱちり、と目蓋を瞬かせて見れば、掌に残るのは赤くなった跡だけ。
「……氷、か?」
「つららですよ」
「氷だろう」
向かい合って座る幸村に向けて、掌を突き出した。
微笑む顔の前で、手を握って、開いて。
「つららですよ、目覚めたときに見つけたのです」
「朝にか」
「曇ったところが全くなくて、澄んでいて、とても……」
「綺麗だったのか」
「ええ」
握って、開いて。
掌をぺろり、と舐めた。
「冷たいなあ」
「つららですから」
そして、二人して赤い掌を覗き込みながら、どちらともなく笑い合った。
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