心配無用
「おはようございます、兼続様!!!!」
「おはようございまする!!!!」
「うむ!!皆も朝早いことだな!!今日も一日義とともに在らんことを!!!!」
重なり合う声だけで、さほど広くもない家屋が震える
直江兼続の屋敷の庭で、今朝も始まる朝の光景
「おはようさん、邪魔するぜ。」
と言いながら、了解の返事も待たずに入ってくる男が一人
とはいえ、家人もそして主も別段とがめることなく迎え入れる。
「おはよう、慶次!」
「…………」
「ん?どうした?」
じいっ、と兼続の顔に見入ったかと思うと、つかつかつか
ぺち、とその額に手を当てる。
「な、何だ?」
「……べつに熱があるわけでもないな」
「え?」
兼続は目を丸くして見上げる
「前田殿?」
ピイィィィッ
口笛の音が高く響き、やがて巨大な体が門を越えてくる
「松風」
ひょい、と目の前の身体を持ち上げて、大きいその背へ
「のせるぞ」
乗っけておいてから馬に兼続に断りを入れ、自らも馬上の人となり
「じゃ、ちょっくら出てくる」
「ちょっ、前田殿!!」
「兼続様!?兼続様ぁー!!」
慌てる家の者達の声も、あっという間に遥か遠くへ
やがて見晴らしの良い丘に出て、兼続を松風の背に残したまま降りるとその口を取って歩きだす。
「流石に早いな、二人も乗せていたというのに」
「これくらい何でもない」
景色を眺めながら、二人と一頭、ゆっくりとあるく
「なんかあったのかい?」
不意に慶次が聞く
「ん?何のことだ?」
きょとん、と返す兼続の顔は普段どおり……に見える
「気付いてないなら教えてやるぞ
が、空っとぼける気なら、流石に怒るぞ」
「……別に、とぼけているわけではない……怒るな慶次」
「ん」
とっ、と松風の足が止まり
「…………」
「…………」
さら、と風が吹いて
「不義なのだ」
「は?不義?」
「嫉妬している」
「嫉妬ぉ?だれに、どんな?」
「三成から手紙が来た」
それはよくある
「幸村のことが沢山書かれていた」
……それもよくある
「幸村からも、手紙があった……」
こくん、と俯いて
「三成のことがたくさん書かれていた」
「へえ?それで」
「二人の仲が良くなって行く事は嬉しい、
実際嬉しかった。それを読んだ初めは
三成のことを考えても、幸村のことを考えても」
だがしかし、と
「今は……嬉しくない」
「そりゃあ、嫉妬かねえ?」
「で、なければ焼き餅だ
三成に幸村を、幸村に三成を
とられた気がして嬉しくない」
「そんなの別に不義じゃないぞ」
「不義なのだ。要らぬことを考える。
……私のほうが……」
ブルルルルッ
松風が鼻を鳴らす
「な、なんだ?」
その背に乗っていた兼続は、驚いて慶次の顔を見る
「『大阪まで俺が連れてってやる』だそうだ」
「何!?」
「まあ、顔を見るのがいいかもな。どうす……」
「二人に会えるのか!!」
「……ありゃ?」
ブルッ
「『重いのがいなけりゃ早く着く』って、何だと!?」
と、叫ぶ間に駆け出して
「早く帰るから、と皆に伝えといてくれ!!」
「早くって……」
あっという間に遠くなる
「ま、松風え……」
恨めしげに後をにらんでいたが
がしがし、と頭をかくと、くるりと向きを変えて歩き出す。
「もちっと近場にしとけばよかった……しかし」
「嫉妬しなきゃならんのはこっちのほうだぜ」
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ようしえんぐみ
歩くたんびに、音が鳴る。
小さく、短く
高く、澄んだ
ぴよ ぴよ ぴよ
近付く音に聴き入って、2人顔を見合わせる。
「かわいいですよね」
「いや、不信だ……兼続!」
三成は、少し離れた場所を歩く友の名を呼んだ。
「お? おお!三成」
ぴよ
「なんだその気の抜ける音は」
「雛だ」
両手を開いて見せる。
しばし、じっと三人で見つめる。
小さな、もこもこ。
ぴくん、と首を傾げた。
「「「…………」」」
「どうしたんですか?」
問う幸村に向かって、兼続は大事な秘密を話すかのように、真剣な顔。
「孵ったのだ」
と、こっそり。
「はあ?」
三成は呆れた顔。
「孵ったのだ、たまごから」
「まさか」
「でも鳥は、卵から生まれるんですよ」
「そりゃそーだが、そうでなくて……拾ったんじゃないのか?」
「違う、いや……そうなのかな?」
首を傾げつつ事情を話はじめる兼続。
「慶次がたまに、ふらっとやってきては何かを拾ってくるのでな……猫とか」
「猫!?」
驚く幸村。
「そうだ、で、どうしようかと悩んでいたのだ」
「猫がいるんですか……」
「そのときはたまごだったのでな、隔離して暖めていたのだ」
「……まさか、お前が暖めていたんじゃないだろうな……」
「というわけで三成、もらってくれ」
「なに?」
「鶏なのだ、まだひよこだが……頼む、三成」
「いや、いきなり言われても困るのだが……」
「かわいいですよ、ひよこ」
「いや、だからといって……」
「きっと、私に似て真っ白で凛々しい鶏になるから」
ぴよ と押し付ける。
「むしろお前にに似て、朝から晩まで喧しくなるような気がするが」
「大きく育ってたまごも産むぞ! よかったな三成!!」
「あのなあ……」
まあ、結局はそうなるのだろうし。
「別にいいがな」
「そうか! 良かった!!」
「でも……たまごは生まないと思いますよ」
「え?」
「オスですし」
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ひよこ鑑別のできる幸村
なべ
兼続「不義だぞ山犬! その皿をよこせ!」
政宗「馬鹿め、今の段階で追加する奴がいるか!」
兼続「これでは足りん! 足りんのだ!!
そもそも、なんでお前がいるのだ!!」
政宗「貴様らに任せておいたら、鍋らしい鍋も食えんわ」
兼続「答えになってないぞ!! ともかく、その材料の載った大皿を寄こせ!!」
政宗「いいから、この大根を食ってろ」
三成「……なんだろうな
しかし、あれは幸村が呼んだのか?」
幸村「いえ、三成殿でもないんですね」
三成「兼続では、もっとないだろうな……おねね様かな?」
政宗「幸村、ちゃんと食べてないではないか、この肉が食べ頃だ」
幸村「あ、ありがとうございます」
兼続「む! それは狙ってた……いや!! ずるいではないか、幸村ばっかり!!」
政宗「文句ばかりの奴に喰わせる肉はない」
兼続「だから、なんでお前が仕切るのだ!! 誰が材料を用意したと思っているのだ!!」
三成「俺だろう、嫌いなものは除けといたからな」
政宗「……それでこんなにも偏った具材なのか……
全く、わしが居らんかったら、まともな鍋は見れんかったな」
兼続「だ〜から、なんで山犬が仕切るのだ!!
食べたいときに好きなものを、楽しく食べるのが鍋の義ではないか!!」
政宗「食べ頃もろくに知らん奴が、四の五の言うな!!」
兼続「われらの義のために、成敗してくれる!!」
政宗「箸をつきつけるな」
兼続「私の中の義が大きくなっていくぞ!!!!」
政宗「静かに喰え」
三成「……なんだかな
しかし、兼続が義〜義〜うるさいのは常のことだが、鍋の義ってなんだ」
幸村「義……自分の中の大事なものを護る、心のことです」
三成「それは前にも聞いたな」
幸村「う〜ん……食欲、ではないでしょうか」
三成「それは……大事、だなあ……」
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