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兼続「幸村〜、三成のところへ行って義を高めに行くぞ〜!」
幸村「あ、ちょっと待ってください」
兼続「ん、なんだそれは?」
幸村「お酒ですよ、いつも三成殿に用意してもらってるので、たまには持っていこうと思ったので」
兼続「そうか、それは良いことだな!! どんな酒なのだ? 重くはないか?」
幸村「もしかして持ちたいんですか?」
兼続「……持ちたい」
幸村「……いいですけど、結構重いですよ」
兼続「随分と厳重に封がしてあるんだな……うむ」
幸村「どうしました」
兼続「いや、私もたまにはなにか用意したほうがいいかな」
幸村「別に気にしなくていいと思いますよ」
兼続「しかし、いつもいつも三成の世話になるのもなあ、いつも」
幸村「(3回言った)」
兼続「幸村を誘っていけばいいか、と思っていたのだが……」
幸村「え、私?」
兼続「左近がなあ……そろそろ請求書でも送ってきそうな顔をしていたのだ」
幸村「え〜と、どんな顔ですか?」
左近「殿……殿の行いに口を挟む気はないですが」
三成「なら言うな」
左近「といいますか、何で皆、殿でなく俺に愚痴るのかわかんないんですが」
三成「俺だって知るか」
左近「いいですか、殿……っ、は、くひゅん!!」
三成「うお!?」
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兼続「邪魔するぞ〜三成!! ん? な〜んだ、今日は珍しく暇そうだな」
三成「お前は、いつも俺が忙しいことを期待して、わざわざ邪魔しに来ているのか?」
兼続「まさか、珍しいなと思っただけだ」
三成「ふん、まあ時間が出来たんで、借りていた書でも読もうかと思ったところだ」
兼続「ああ……それはお前に貸していたのか、よかった!」
三成「ん?」
兼続「ちゃんと存在していたのだな!」
三成「どんな心配だ」
兼続「見つからないので、もしかしたら、私の心の中にだけ存在していた書物なのか……と
ひとり、夜空を見上げては心痛める日々だったのだ……」
三成「大げさだな」
兼続「というわけで、今日中に読んで返してくれ、終わるまで待つぞ。
早く読め、さあ読め、ほら読め、どんと読め」
三成「やかましい!! はあ……結局忙しいな……」
44
向かい合って座りあい、けれども真っ直ぐに見つめあえるわけもなく。
話題に上るのは専ら、居ないくせに、その賑やかさだけはここに蘇るような、もう一人のこと。
柔らかな笑い声を聞きながら、自分に向かって苦笑する。
行き過ぎる風。
追って目線を動かせば、少しだけ癖のある黒い髪が揺れていた。
「幸村、少し髪が伸びたんじゃないか?」
「そうかもしれませんね。ハチマキしてるんであまり気になりませんけど」
「四六時中してるわけではあるまい……ちょっと貸せ」
「はい?」
少しの間、首を傾げていた幸村に、三成が手で招く仕草をする。
首を傾げたまま、二度、三度と目をしばたたかせていたが、幸村はひょい、と顔を突き出した。
一瞬三成の手が止まるが、結局は手を伸ばして。
「結ってやろう」
「え……? え!? 自分でやりますよ?」
正面から、幸村の顔を挟むように両手を伸ばし、白い結び目に手を掛ける。
しゅっ、と解けてすべり落ちる。
鉢巻の端をつかんだまま、またも止まる三成の手。
「三成殿?」
行き過ぎる風、今度は先ほどよりも強く。
白く長くたなびいて、落ちた。
「おお!! 三成、今日は髪形が違うな!!」
「まあな」
「そういえば、さっき会った幸村も結っていたぞ!! おそろいだな!!」
「……そうか」
「?」
どっちかな