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43

三成「廊下が通れませんよ……何の騒ぎです、おねね様」
ねね「ああ、すまないね三成。来てもらっといてなんだけど、用ができちゃってね……
   正則のやつが風邪引いたって言うんだよ」
三成「一体何事かと思えば……おねね様会いたさの仮病じゃないですか?
   そもそも信じられませんね、よく言うじゃないですか、なんとかは風邪を引かないと」
ねね「まさか。でも万が一そうだったとしても、会いに行かなくちゃね
    そのときは、もちろんお説教もたっぷりと」
三成「ご存分に」
ねね「そういえば三成は風邪引かないねえ」
三成「……どういう意味です……」
ねね「やだねえ、それ以上の意味はないよ
    来たばっかりのころに一度あったような覚えがあるけど、それっきりだねえ」
三成「当たり前です。自分の体調管理ぐらいできて当然でしょう」
ねね「ちょっとぐらい、いいじゃないか……」
三成「なにがですか……」


ねね「三成も、行くかい?」
三成「冗談じゃありませんね」
ねね「まあ、そういうだろうと思ったけどね、でも……」
三成「俺は、幸村以外に風邪をうつされるのは嫌です」
ねね「そ、そうかい」
三成「うちの家中でも常々厳重に注意してますから
   左近に命じて、うちの者たちに全員、手洗いうがいを徹底させています」
ねね「左近も変なところで苦労してるねえ」
三成「何が苦労です、結構なことじゃないですか」
ねね「じゃあ、これをあげるよ」
三成「何です?」




左近「殿! 何やったんです!? うちに生姜の山が出来てるんですが!!」
三成「お前にやる、このでかい巻物もな」
左近「『ねね印の激甘ちょい辛生姜湯の作り方』?」
三成「……ほんとは、ちょい甘激辛だったがな……遠い記憶だ……」
左近「いや……本当になんです?」






42

三成「幸村! 奇遇だな」
幸村「三成殿! 左近殿も! これからどこかへ行かれるのですか?」
左近「いえ、やる事が出来たんで、いったん屋敷で……」


ごすん


三成「左近、別に気を使わなくてもいいんだぞ (にこお)」
左近「(……はいはい……他所じゃ見られぬいい笑顔ですよね……)
   幸村、俺は用事があってこれから帰りますんで、殿を頼みますね」
幸村「は、はい……ご苦労さまです」
左近「幸村……その言葉が妙に沁みますね……本当に、苦労してるんですよ……」
三成「急いだほうがいいぞ、左近
   と、ところで、幸村はどこへ行くのだ? なんだったら一緒に……」
幸村「ええ、一緒に行きましょう」


三成「二人で」
幸村「兼続殿のところへ!!」


三成「え〜……」
幸村「では左近殿、また」




無駄のない動きで歩く姿の隣、半ば引き摺られるようにしぶしぶ歩いていく背中を見守る左近。

「なるほど……あとか先か、ですな」
いつもの顔ぶれ。行くか、来るか。
「今日は屋敷のほうは、静かそうですねえ」

うんうん、と頷いて、帰り路へ。





41

ばっ と片腕を大きく振れば『大一大万大吉』の文字が大きく広がる。
石田三成愛用の大扇。


三成「ふむ……随分痛んでいるな」
兼続「なんと!? われらの大事な文字がゆがんでるではないか!!
   なんだか不義だ〜!!」
三成「喧しい」

ぺし、と軽く頭を叩く。

幸村「よく使ってますからね」
三成「……仕方ないな、替えるか……」
幸村「三成殿……」
三成「変な顔をするな、幸村。別にどれでもおなじだ、武器として使えればな」
兼続「武器として使える、というのは特殊なもののような気もするが」
三成「頑丈で、重さがあって、起爆装置になればよい」
兼続「どこで売ってるかな?」
三成「知らん」
幸村「……左近殿って、大変ですねー……」
三成「ゆ、幸村!? なんでそうなる!」
兼続「まあ、何でもたのめる頼れる男だ、ということだ!」
三成「ぐっ」
幸村「直せないんですか?」
兼続「ふむ!! ここはわれら力を合わせて修理を試みようではないか!
   もちろん文字は私に任せろ! 義と愛を込めて書いてやるからな!!
   起爆装置とはどうなっているのだ?  びーむの追加装備などはいらんか?」
三成「楽しそうだな、兼続」