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 (注) 56番より、戦国無双3のネタが入ります。



57

「貴様……俺と幸村との仲を邪魔するのは止めてもらおう」
「え〜? わざわざ邪魔しなきゃなんないような仲なんて、どこにあるんですか?」

ビキビキビキ

ごお……と吹き抜ける風は凍るように冷たかったが、強く煽られて、三成の心は激しく燃えた。
対峙する少女―――くのいちの眼差しは一段と冷気を増す。
熱気と冷気とが渦巻いて、あたりの空気が歪む。

ビキビキッ、ぶすっ



「おっ、やってるな〜あの2人」
「あれを見て、なんでそんなにのん気に構えてられるんですか? 兼続さん……
俺は巻き込まれるたび、何かが突き刺さるような気分を味わうんですから……主に胃に」
団子を片手にほほえましげな兼続に、腹に手を当てつつ顔色の悪い左近だった。
「幸村の傍なら大丈夫なのに」
「……あとで怖いからいいです」


「幸村!! 俺は手伝っただけだが、おねね様特製三段重ね弁当を見るがいい。
見た目が豪華なだけでなく味も絶品だぞ。俺は手伝っただけだがな! この煮物がお勧めだ」
「わあ! 好きなものばかりです」
「幸村様!! 手作りならあたしもです! これを
忍びの丸薬、一粒食べれば満腹丸、3日はお腹がすきませんぜ」
「おいっ! 幸村にどういう拷問をするつもりだ」

ぐいぐいぐい、と手に持って突き出す2人。

「くのいち……ありがとう」
受け取ってそっと手に握り締めた。
「幸村様……」
「次の戦で使わせてもらおう」

「幸村、この煮物は実に美味そうだとは思わんか?」
くすり、と幸村は微笑む。
「そうですね」
でも手をつけなかった。
「ゆ……幸村……」
(三成殿そんなに食べたいんだ、取らないで置こう)




「あの煮物は殿が作ったんですねぇ、なるほど」
「そうなのか、何とかしてやりたいな……コレを飲みながらでも策を考えるか」
「飲むのはいいんですが、なんでこう寒いのに外で酒盛りなんかしてるんですか?」
そっと上を向く。桜の枝にはまだ蕾。
「予行演習だ、んぐ、花見の」
「口実ですよね?」
「何事も大事なのは準備と後片付けだ」
「後もやるんですね?」
「ぷは、思いついたぞ」
口をぬぐいつつ、勢いよく立ち上がって近付く兼続。
「幸村〜! これ食べろ」
「策っていうか直球?」

ひょいっと抓まんで幸村の口元へ持っていくと、ぱくり。

「やったぞ三成!」
「な、な、な」
にこやかな兼続の指先を見て、口をあけたまま固まる三成、息を飲み慄くくのいち。
「ちょ、いま、あた、当たっ」
「おっと、指に汁が付いてしまったな」
間一髪、左近は兼続の腕を取って拭き取った。
青い顔の左近に引き摺られていく兼続、幸村はもぐもぐ、咀嚼しながらそれを見送った。
「ん……おいしいですよ! 三成殿」
そういって、先ほどの兼続のように、そっと差し出した。
三成の脳裏で先ほどの光景が再生される、結局ずっと固まったままだ。
動けたのはくのいち。

「えい!」

ぽい
ぱく
「けぷっ」

お腹がいっぱいになった。





56

「む?」
「や、ちょっといいかい?」



「お酒は止めといた方がいいと思うけどなあ〜
あ、お土産ならこの方がいいんじゃない? 一応お酒だよ」
「漢方くさいな (ぐい) 」
「試飲は出来ないみたいだよ」
「大丈夫だ」




「取材?」
「そうだよ〜、今回はキミと石田三成との出会いについて話を聞きたいなぁって」
「…………」
「何?」
「死んだはずの人間が出てきて、何をやっているのかと思えば……」
「ダメかい? 」
「いや、出会いというなら、あれは運命の出会い、やはり義の根本から説かねばと……まずは私の師の……」
「ああ〜そうそう、仲良くなった切欠とかは? 
たとえば、名前を呼び合うようになったのは何時からか〜とか、
もっと身近で親しみやすい内容で書いてみたいんだよね」
「名前〜? そういえば最初は直江殿とか言ってたな、懐かしい……」
「(ほっ)」




そう、今でこそ知音と呼ばれ。互いに遠慮ない間柄。
というか、顔を見るなり『うるさいやつが来た』だの『めんどくさい』 だの……まあいいさ、あいつらしい。

しかし幾らあいつでも最初から遠慮がなかったわけじゃない。
口がたつうえ率直に過ぎるから、誤解されやすいが……


『どうしたのだ、石田殿』
『……直江殿……』


「というわけで回想シーンだ」
「了解したよ、書付けの準備してもいいかい?」




話をしてみたい―――そう、自分が彼に強く興味を持っているのだと気付いたのは 景勝様に言われてから、だった。
「楽しそうだな、兼続」
「え?」
「もらいものだが、持っていけ」


「たしかこの辺りだったよな……」
「はあ〜……」
「すいませんそこの人〜石田殿の屋敷は何処ですか〜?」
「そこだ、って本人だ」
「知っている。うむ、どうしたのだ、石田殿」
「……直江殿……」
「疲れた顔をして」
じとっとした目を兼続へ向ける。
「声をかける前から、ため息ついていたではないか」
「別に、そんなことは……」
「そういう時、一人で酒を飲むのはよくない」
「飲むと決め付けてないか? いや、そもそも何もない、気にしないでくれ」
「気にはしてない、酒を持ってきたのだ、飲むなら二人で飲もうではないか」
「何でだ」


「くっ、どいつもこいつも…… 人の顔を見るなり『なんだそのもふもふ』!」
だんっ、と酒椀をおく三成。
「こぼれるぞ」
「正則のやつは『お前……正気か』とまで…… お前に言われたくはないわ〜!!」
「ああ、こぼれるって」
「人の話は聞かんくせに、人に対する文句ばかり言いおって」
「文句……いや、私はそのもふもふいいと思うが」
「もふもふじゃない! って今なんと? 直江殿」
「はじめてみたときから思っていたのだ……いや、心に響いていたのだ」
どぼどぼ、と自分の椀に注ぎつつ兼続は、ふっと微笑む。さわやかな笑顔。
「そのちょっと伸びたしっぽからは深い愛を、その生き生きとした色彩からは強い義への情熱を!」
ぐっと酒瓶を握り締める。
「カッコイイ!!」
「直江殿……っ」
震えながら、顔を紅潮させる三成。ちょと酔ってきた。
「俺も……俺も貴殿の兜をみたときに、衝撃を受けた……このような造詣をこの世で見ることが出来ようとは」
だんっ
「美しい!!」
「石田殿!!」
「直江殿!! ……いや、俺のことは三成でいい」
「そうか、では私のことも兼続と呼んでくれ、三成!」
「ああ!!」
「おっと、こぼれるぞって、三成」

あはははは




「というわけで、次の日ぐらいから今のような」
「ふう〜ん」
どんよりとした目で、びびっと筆を走らせる。

『同類』

「さて……でもまあ、取材に応じてくれてありがとう、礼を言うよ」
「なあに、土産を選ぶ相談に乗ってもらったからな」
二本の瓶を持ち上げて、兼続。
「ついでに土産話もできた」
「そうかい、じゃあよろしくね」
でもほどほどにね〜、と手を振って別れた。