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54

兼続「季節の変わり目になると、部屋の模様替えでもしたくならないか?」
三成「別に思わん」
兼続「この部屋も、もう少し華やかさが欲しいと思わないか?」
三成「だ〜から、俺は思わんというのだ。そんなことは自分の部屋でやれ」
兼続「いや、既に景勝様のお部屋は綺麗に整えてきたところだ」
三成「俺は自分の部屋といったのだがな」
兼続「華やかさといっても、派手に変える必要はない。ただ、統一感は必要なのだぞ」
三成「お前は、この部屋に何か文句でもあるのか」
兼続「ふむ……赤い人形が置いてあって気付かなかったが、一応床の間なぞもあったんだな」
三成「こら! 勝手に探るな!」
兼続「折角だから春らしい掛け軸でも掛けたらどうだ」
三成「春らしい?」
兼続「ふふ、ここに春らしく愛らしい掛け軸が一幅」
三成「なんで持ち歩いてるんだ。ん……どれどれ」

くるくるくるくる

三成「愛らしい、じゃなくて、まんま『愛』だよな……」
兼続「この真ん中の曲線が、大変春らしい」
三成「そうかそうか、そうだ、床の間の横に掛けてみると言うのはどうだ? 斬新じゃないか?」
兼続「ほほう、見事に陰になるな」





左近「ああ、それでですか」
三成「あの後も部屋を弄られてな、一々色々言われた。
   まあ、結局大してなにもしてはいないが……」
左近「いえ、結構印象が違います」
三成「そう……なのか?」
左近「なんかすっきりしましたよね。
   ……でも殿、気付いてないんですね」
三成「ん?」

襖の外側に貼られた書、一文字。







53


ごきん


兼続「ん? 凄い音が聞こえたな」
三成「……いいから、聞かなかったことにしろ」
兼続「なに!? 今のはお前か! まさか肩が凝ってるのか!」
三成「なんで楽しそうなんだ」
兼続「私が治してやろう」
三成「いやだ。なんで楽しそうなんだ! それを答えてからにしろ!」
兼続「最近、身体のつぼに興味があってな。色々と勉強してみたのだ」
三成「やめろ、本当にやめろ」
兼続「心配するな、鍼を使おうとまではいわん、流石に無理だ」
三成「当たり前だ」
兼続「何しろ、まだ途中までしか読んでないのだ! ん、三成……?」
三成「…………」

そっと手を取る。

兼続「い、いだだだ!!」
三成「読み終わろうが、なんだろうが、お前は絶対にやるな、よっ」
ぐいぐいぐい


兼続「つ〜……ん? こ、これは」
三成「ふん、すこし目が疲れているようだな」
兼続「詳しいのか、三成……」
三成「ふ、お前に講釈を聞かされるまでもない……
   素人が……安易に踏み入ってくれるなよ」

ごっきん

兼続「そうか、年季が入っているのか……」
三成「……聞かなかったことにしろ、というのに」







52


「今日は結構冷えますね」
ふ、と白い息を吐いて幸村は空を見上げた。
今にも小さな粉雪が舞い落ちてきそうな空の色。
それ以外には何も目に入るものはない白灰色の空、急にぽん、と寂しさが心を覗く。
僅かに身を震わせて、視線を戻した。


隣には三成の姿、先ほどの自分と同じように空を見上げている。
そのすぐ向こうで、兼続は自身の両手に、はあ、と息を吐きかけた。
「そうだな、く〜手が冷たいぞ」
「兼続、超高速で手を擦り合わせてみるがいい
 ……幸村、手を出せ」

三成は、視線を戻しながら右の手を差し出した。

「ほい」
ぽん、と載せられる兼続の右手。
「幸村と言っただろうが!」

べちん

「手が冷たいのは私なのだ!!
 そりゃ、そっと手を繋ぐよき口実!! 叶えさせてやりたいのだが!!」
「わー! わー! 大きな声で言うな!!」


「危ない!! いや、幸村様!! 焚き火です!! すぐ燃えます!!」
「ついでに栗でも入れとくかな」
「弾けて危なくない? そこにだんごでも刺しとこうよ」
どこからか十勇士の姿。

「温石を」
そっと差し出される布にくるまれた小さな包み。
「ありがとう。佐助」
受け取った包みは、とても暖かかった。








51



「ではな、三成、また夕刻に!」
「ああ」


門を潜り抜けて、見慣れた風景に出くわした。
ああ、来てたんですかい、と心のうちで呟いて、
ぴた、と足を止める。



兼続「おお、左近ではないか」
左近「え〜と……」
三成「どうした、変な顔をして」
左近「いえ……今まで居たんですか?」
兼続「ん? 私か?」
三成「いや、少し顔を出しに来ただけだ」
左近「あ、ああ、そうですか」
兼続「おお、そうだ、これから城に行かねばならんのだった
   急いでいてすまない! 
   だが、義のある限り、決してお前との時をおざなりにするものではないのだ!!」
三成「わかったわかった」
兼続「では改めて!! また会おう!!」
三成「もちっと静かに出ていけ」



左近「あの人も、多忙な人ですねえ」
三成「そうだな」
左近「これから、また城に顔出すんですね」
三成「どういう意味だ?」
左近「いえ、先ほどまで城にいたようだったの」
三成「そうなのか? というかお前城に行ってたのか?」
左近「いえ、門の近くで見かけただけです」
三成「……城からうちに来て、また城へ出て、夕方やって来るのか……」
左近「……なんだか、勝手に自分で多忙にしているというか、元気な人ですね……」



幸村「お邪魔します、あ、こんばんわ」
左近「ああ、幸村。殿も兼続殿も待ってますよ。
   なんだか妙に盛り上がっているんで……まあ、あとは頼みます」
幸村「はあ……あ、兼続殿も、もう来ているのですか?」
左近「え、ええまあ、そうですか」
幸村「先ほどお会いしてたんですが……そっか、途中で入れ違ったんですね」

一緒に行ってもよかったな、と呟く姿。

左近「……城で会ったんですか?」
幸村「え? いえ港で」
左近「兼続殿でしたか?」
幸村「は? ええ、話もしましたし」
左近「ちゃんと義とか言ってましたか?」
幸村「あの……兼続殿も、そういつもいつも……」
左近「では、そっちがか!」
幸村「……あ、でも言ってたような」
左近「何!?」
幸村「ど、どうしたんですか、変な顔をして」
左近「やはり一人なのか!? だが二人居るというのも……!?」
幸村「左近殿! 左近殿!? お、おつかれです〜!?」