be happy


眉間にしわを寄せて、じい、と手の広を見つめる。
座り込んでピクリとも動かぬ体とは別に、思考は留まることなく回り続ける。
持ちうる知識を引き出し、経験を下にあらゆる可能性を考慮し、目的の為に最適な導を求めて。





「……何を真剣な顔をして見てるのだ、お前は?」

直江兼続が、豊臣家の奉行石田三成の屋敷を訪ねてみれば、何時にない深刻な様子の友の姿。
どんな難題、面倒な仕事が山積していても顔色を変えずに「当然」の一言でこなす三成にしては珍しい……のかもしれない
ちら、とだけ兼続をみて「そこらにでも座れ」とまったく愛想のない言い様。

(……また随分と考えに没頭しているようだな……)
兼続はあきれるよりも面白そうに眺めた。

(実際、面白い)





「……ものというのは確かに腐るものだ」
突然に話し始める三成。
「そうだな」
「だが、腐敗するのは何らかの原因があるからだ。元々腐ってない状態があるのだから。」
「あるな」
「ならばその原因を取り除けば、原因から切り離している限りは、腐らない。
腐敗という状態には移らないのではないか?」
「そうかもしれんな」

だが
と兼続は告げる。
「腐らない菓子は最早食べ物ではないんじゃないかと思うぞ
早いとこ喰え、もったいない。」
「……食べるのが勿体ないから考えてるのではないか……」

眉間のしわを深くして、三成は兼続を睨んだ。
そのわりに、声色に情けない響きが混ざる。
その手には、南蛮渡来の焼菓子がちょこんと乗っていた。





「幸村にもらったのか」
「なんで分かる!?まさか……」
「いや別に私ももらったとかいうオチではない」
ないない
と手を振ると、三成はほっとした顔になり嬉しそうな声で
「そうか……
ではやはり俺『だけ』ということだな」
と呟いた。
兼続は、
(はて?そうか?)
と思ったが今は口にしなかった。
「まあ、お前がえらく嬉しそうだったので。幸村が関わってるんだろうと思っただけだ」
「む……」
三成は少し顔をしかめるが
まあいい、と結局すぐに顔が緩む。

それはもう、ものすごく緩む。

「嬉しい。
ただ、くれたのだ。
初めて
理由もなしに、ただ、くれたのだ。
わざわざ俺だけに」
「そうか」
と相槌をうつ兼続。
(うむ、貴重なものをみているな)
その内心は少しずれていた。

「覚えている……あの笑顔を浮かべて」

『どうした……幸村』
『すいません、大した用事ではないのですが。あの、お忙しいですか?』
『かまわん』
『ありがとうございます』
『かまわん……』

『三成殿は甘いものは好きですか?』
『嫌いではない……』
『よかった。是非これを貰って下さい。私はあまり得意ではないもので……
珍しいものだそうですよ』
『そうだな、これは……』

回想に浸ってる三成を眺めながら、だが兼続は何事か考える
「ふむ……なあ三成」
「ん?」
「幸村は、誰からもらったのかは聞いたのか?」
「は?」
「いや幸村の話し方がな……
自分で入手したという感じではないような……」

「…………」
「…………」





「お、おねね様だろう。おねね様に違いない。おねね様じゃなきゃだめだ。」

ざっ

どたどたどたどたどたどたっ





「ふむ……どうするかな……」
一人部屋に残された客人、兼続
「幸村のところに行くか。」
それがいい、そうしよう。一人手を打って立ち上がる。

面白い

楽しそうに、ゆっくりと歩いて。





おわり    もどる