だんご


背の高い男とやたら背の高い男が通りを歩いている。

と、背の高い男――兼続が目を爛々と輝かせて家と家の間を指差した。
やたら背の高い男――前田慶次もそちらを見て足を止める。
「やたらに挙動不審な人物を発見したぞ!」
見れば確かに男が一人、隙間から顔を出して右を左を熱心に見渡していた。
「うれしそうだねえ……まあ、俺も厄介ごとは好きな方だがね」
だが見てみなよ、と慶次は落着いている
「髪型も変えてるんで分かり難いかもしれないが、あれはあんたの知り合いじゃないか?」
うん?と首を傾げた兼続、じいいっと、その男を見る。

ぽん

「なんだ、三成ではないか!!」
「うわあ!?」
挙動不審な男――石田三成は、前方に現れた友人に大きな叫び声で答えた。





今度は3人並んで通りを歩いている。

「とにかく、お前らの様な目立つ奴らとは一緒にいられん、離れろ。」
「寂しいことを言うな」
「目立つといえば……今日はえらくおとなしい格好だねえ?」
そういって慶次が三成を見下ろす。
紺の着物に同系色の袴。頭はただ、髪を一つに括っている。
「前見た時は、傾奇者顔負けの格好だったと思うんだが。」
「……そこまででもないだろう?」
そういって首をかしげる三成。
全く自覚はない。

「ともかく、私たちはこれからこの先にあるだんご屋へ行くところなのだ。」
「なにい!?」
「何でそんなに驚いてんだ?」
「い、いや……まあ、良いか……」
「「???」」
「慶次が奢ってくれるというのでな」
「まあ、気分転換にもいいんじゃないかと思ってね」
「ふん」




そのだんご屋は、評判の割りには小さな店構えだった。

「今まで食べた中で一番美味かったと聞いたのだ!」
「それは、ありがとうございます〜」
小柄な店主がぺこり、と更に小さく体を曲げる。
何がしか話し始めた2人を少し離れて眺めてから、三成は隣の男を見上げて
一言、告げる。
「食べ物で釣るのか?」
こっそりと、だがはっきりと睨み付ける。
「人聞きの悪い。
ただ、美味かったからだよ
美味かったから、あいつにも食べさせてやりたい、と思っただけだぜ?」
そういってぐるり、と見返す。
「ふん……」





作りたてらしきだんごが2皿に、汲みたての冷たい真水。
一本手にとって、ぱくりと口に収めた

「美味い!」
思わず叫ぶ。

「程よい甘みにこの柔らかさ……すばらしい!御店主のだんごへの愛を感じるぞ!」
どうもありがとうございます〜と奥から声
その様子を静かな様子で眺めている慶次

「景勝様にも、ぜひ食べてもらいたいものだ……」
「ああ、土産に持ってってやんな。それくらいいいぜ」
「うむ、では2万本ほど!!」
「にっ!?」
不覚にも一瞬固まる
「まいど〜」
「あるのか!?」
「ははっ、冗談だ!」
「あ、ああいや。構わなかったんだが……」
「割り勘だ」
「…………」





「あいつの金銭感覚は時折おかしいな……」
ごそごそと、だんご入りの大きなたるを背負いながら、三成は裏口からそっと抜け出す。
きょろきょろと左右を見渡して、今度は前や後ろも見渡して。
「流石にこんな姿を見せるの訳にはいかんのだ!」
ごそり、と甘い香りの漂うたるを背負いなおすと、
やっぱり、きょろきょろ、と挙動不審な様子で通りを歩き出した。





終わり    もどる



なんだろう?な話。
三成不審

慶次→兼続→義(人じゃない)