大阪城探訪、未遂




 天高く晴れ渡る青空に堂々とそびえる天下の城。
とはいえ、三成には見慣れた馴染みの姿、今は天守閣の背にこれから昇り行く日の光を従えて、 短い仮眠から目覚めたばかりの身には、少々眩しすぎる。
2、3度目を瞬かせてから、三成は歩き出した。
だが、幾程も行かずしてその足が再び止まる。耳に届く聞きなれた声。



「う〜む、ここから見る角度がおかしいと思うのだが!」
「そうですね、でもあの辺りの部屋で……」



見れば、直江兼続と真田幸村、先ほどの三成と同じような姿勢で上を見上げては、こそこそ。
……いや、これだけでかい声で密談というのも変だが、2人の仕草だけはこっそりと。
「お前ら、何をやっているんだ」
「おお、三成!! 今日も不機嫌そうだな!!」
「どんな挨拶だ」
「おはようございます」
「……おはよう、幸村」
ボソッとつぶやいた後、頭を掻いて、
「しかし、お前まで一緒になって何をやっている、たまには止めるか放っとくかせんか。
言っておくが、ここで騒ぎなど起こすなよ」
「あ、すみません」
「俺が恥ずかしいからな」
「淋しい事を言うな!! 三成よ!!」
「うぐ!?」
どっすう、と勢い良くしがみつく兼続。
「われら義と愛その他で結ばれた友ではないか!! すなわち一蓮托生!!」
「ごふっ……兼続……」
三成の目が鋭く輝く。
「あ、あの三成殿」
怒りに震える三成の肩に幸村の手がそっと載る。
「止めるな、幸村」
「いえ……」




勢い良く、義! と五月蝿い兼続をぶら下げて
幸村の長い腕が繋がって
不機嫌極まりない顔の石田三成が、勢いに乗って ぐるぐる。




「……騒ぎを起こすなというのに」
「すいません、なんとなく」
「別に問題を起こすようなことはしていない、見ていただけだ」
「見ていた……? 何をだ」
問えば、2人顔を見合わせて沈黙。


「……三成殿なら知っていそうですよね」
「むう!! しかし、最初に解答を見るようなものではないか」
くる、と兼続は、三成へと向きを変えて、
「というわけで、この件に関しては三成には秘密だ」
「さっき一蓮托生とか言ってなかったか?」
「そのへんはまあ、臨機応変に」
「…………」
調子のいい
「……淋しい、ではないか」
「うっ……」
ひるむ兼続。


「三成殿に聞くのがいいのでは? 少なくとも私たちよりも詳しいですし」
「わかった……」
「一体何を見てたんだ?」
「そうだな……話は昨日の晩に遡る」
頷きながら兼続は話し始めた。




『幸村!! 隠し通路とか秘密の部屋とか開かずの間とか、いいと思わんか!!』
『最後のは少し違いませんか?』
『お前の実家には結構ありそうだな』
『そ、そうですねえ』
『だが!! わたしは大阪城にもあるのではないか、と思うのだ。というかあって欲しい。あるべし』
『希望ですか』
『いや推理だ! 探すぞ!!』




「……と、いうわけだ」
「お前は〜……そもそも十分問題になるだろう、それは」
「暴いて騒ぎ立てるつもりはないんですが、ちょっと好奇心に負けてしまって……
大阪城内には忍も入れませんし」
「まあ、あれこれ言いながら散歩するぐらいしか出来なかったんだが
どうなんだ?」
「ん?」
「あるのか?」


真っ直ぐに聞く。きらきら輝く瞳。
みれば幸村も、良く似た眼差しで。


「ない」
「え〜? 本当か?」
「少なくとも、俺が知っているものはない」
「緊急の避難通路ぐらいはあるんじゃないか、と思ったんですが」
「ああ……そういう話は聞いたことがあるが、な」
「ほう! やはりな」
「ただ、まあ……これは秘密にしておいて欲しいのだが……」
ばさ、と小さな扇を取り出して、顔を隠す。
「避難通路というよりは、秀吉様が城下に降りられて、こっそり遊ぶためだったようでな
あっさりおねね様にばれて、塞がれてしまったという話だ」
ふう、と息をつき
「ついでに、きつ〜くお仕置もされたらしくてな、それ以上の詳しい話は聞かされなかった」
「そうなのか……」
「ぶっちゃけ恥なのでな、あまり言うなよ」
「わかりました」
「うむ、『あまり』ではなく『ちょっと』ならいいのだな」
「言葉のあやだ! いいから心に仕舞っとけ!!」
ぺしん、と扇で軽くはたく。


「塞がれているでけなんですか?」
「ああ……心配するな。第一、毎日大勢の人間が訪れる所だぞ? 
全く気付かれずに済むわけがないだろうが」
「そういうえば、そうですよね」
ちょっと首を傾げて幸村が頷く、その横で肩をおとす兼続。
「う〜む、てっきり隠し通路の先に
地下温泉とか、地下都市とか、地下招き猫館とかあるのではないかと思ったのにな」
「だんだん期待が膨らんでったんですね、私は隠し港とかあったら格好いいなあと思ってました」
「期待というか妄想というか……」
呆れる三成。
「仕方ない、折角だから散歩は続けるとしよう、今度は3人でな!!」
早々と切り替える兼続。
「まあいいが、眠気も覚めてしまったし」
「ええ、今日は本当に天気いいですしね、町にも出て見ませんか?」
ならんで、もう一度歩き出す。






「全く……危なっかしい奴らだ」







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