新春
年が明けての大阪の城
ここまで休む暇のなかった三成は、ほんの僅かな時間だが一息入れることにした。
「忙しいのは、いつものことだというのに……」
兼続は勿論、左近も領国に帰っている、
何より幸村に長いこと会っていなかった。
寂しいということはない、だって1人でいたわけではない。
ただ
「疲れた……」
背中が僅かに丸くなる
そこへ
ばーん!!!
「元気か〜!三成!!」
「あけましておめでとうございます、三成殿!!」
「うわ!!?」
襖を蹴破るほどの勢いで部屋に飛び込んでくる兼続と幸村
「やれやれ、後で直しといてくださいよ?」
その後から続いて左近が顔を出す
「練習しておこうと思って早めにきたのだ!!」
「それに最初に三成殿に見ていただきたいと思いまして!!」
「一体何事だ??」
状況の分からない三成に、はしゃぐ二人……二人?
「兼続、お前変じゃないか?いや、変なのはいつもにことだが
なんというか……背後の人はなんだ」
「ああ!」
ばさり、と兼続が広げた腕はどうも彼のものではない、
一回り大きな羽織の背中がふくらみ、裾から伸びる袴は4本分、袖から伸びる腕はその後ろの人物のもの。
これはいわゆる
「二人羽織だ!!」
「いや……なんでだ……?」
「あっ、三成殿、まずは私から見てくださいよ!」
と幸村
「まずは改めて、開けましておめでとうございます三成殿」
「え?あ、ああ、おめでとう幸村」
ぺこり、と頭を下げた幸村
下げた頭を戻したときには何故か手に一本の十文字槍
「新しい年を占いまして、上手くいきましたらご喝采!!」
ぺい、と大きな大きな酒椀が部屋の外から飛んでくる
「槍の上で回します!とう!!」
くるるるるるるるるるる
「おお!!やるな幸村!!」
大きく拍手する兼続に、三成はぽかんとして、つられたように手をたたくばかり。
「次はこの般若湯を……」
「わっ、それは外で練習してください」
たぷん と桶の中身が揺れるのを見て左近がとめた。
「次は私だ、先に言ってしまったが、二人羽織をやるぞ!!」
ばっ と後ろの人が腕を伸ばせば、どこからか忍び装束の男が現れ、すっ と蕎麦の入った丼を差し出す。
「これから蕎麦を食べますぞ!!では、お願いします」
ざっ
ふうふうふう
ずるずるる
「わ〜!上手です!」
「こういうのは、多少失敗したほうがうけるんじゃないですかね?」
「(モグモグ)ん、そうか?」
食べ終わった兼続に、今度は後ろの人、白い布を取り出してそっと口元を拭いてやる
「ふう、すみません。で、どうだ?」
と、呆れ顔で見ていた三成に聞く
「どうだ、といわれてもな……お前食ってだだけな気もするが……とりあえず後ろの人が誰なのか気になるんだが……」
特に、あの兼続が敬語だったのが気になる
妙に息ぴったり、だったが
「大きさからいっても前田じゃないよな……」
「あ、慶次殿なら松風殿となにかやるっていってましたよ?」
「そうなのか?私には大きな紙が手に入らないかと言ってたが?」
と、兼続
「出来れば千畳分ぐらい欲しいといっていたぞ」
「千畳!?どこで何をやるつもりだ!!いや」
はっ と気付いて三成
「そもそもお前らも何をやるつもりだ!?演芸会でもやるつもりか!?」
「そうですよ?」
「そうだが?」
二人……いや多分三人そろって首を傾げて三成をみる
「はあ!?」
「上様の新年の挨拶のことなんですよ」
左近が説明する
「秀吉様?」
「ええ」
こくりと大きく頷いて
「今年はおねね様と2人で夫婦漫才を披露するというので、各大名、武将の方々もお返しに何か芸を披露することにしたんだそうです」
「は!?」
聞いてませんが?!な顔の三成
「殿は知らなかったんですか?まあ、あちこち走りまわってましたからなあ……
秀吉様夫妻、激しいどつき合いを繰り広げるという話で、皆様も変に張り切ってるらしーです」
「……まあ、納得はいった、しかしな……」
はあぁぁぁぁああ
どっと疲れが返ってきて、大きなため息も漏れるというもの。
「左近殿が何をやるか、期待してますぞ!!」
「い、いや……俺はいーです」
「幸村が期待してるというのだ、せいぜい頑張れば良いだろう」
「殿……」
「懐かしいです(昔見た女装)」
きらきら目を輝かせて幸村
「やりませんからっ、絶対!(忘れてくれ!幸村!!)」
視線で必死に訴える左近
「何、目と目で通じ合ってるんだ」
イライラと左近をにらむ三成、その肩をぽんと手がたたく
振り返れば、未だ二人羽織状態の兼続
「左近のも楽しみだが。三成、お前はどうするのだ?」
「何もするわけないだろう!!今知ったんだぞ!?」
「秀吉様たちも楽しみにしてるんじゃないか?それに、お前には重要な役割がある」
びし、と指をさす……重ねて言うが二人羽織状態の兼続
「な、なんだ?」
「今回、トリが徳川殿なのだ」
何故かひそひそ、小声になる
「何をやるのか見当もつかんが……それがうけてもまずいし滑っても不味い
ってわけでオチをかっ攫おうと陰謀を廻らしているのだ」
「それ陰謀か?」
「そうだ!というわけで『ドカン』と頼むぞ三成!!」
び、と今度は親指立てて
「爆発オチですかね?」
「爆発オチですね」
「やるかあ!!!!」
どこからともなく取り出した嘉瑞招福がうなる
すぱあぁぁぁぁん
城中に響く音
「おおお!三成!!さすがじゃあ!」
余韻が収まらぬうちに、どこからともなく姿を現したのは
「わっ!ひ、秀吉様!?」
「わしの見込みは間違いなかったようじゃの!」
なぜか涙目で三成に走り寄る秀吉
「わしにはお主の才が必要なんじゃあ!!三成!!」
「秀吉様……」
がし
「ん?」
「じゃあ、三成も加えるんだね?ネタを直さないとねえ」
これまたどこからともなく、ねねの声が聞こえて
がし
左右から腕を掴まれて
「はあ〜これでねねのツッコミから開放されるんじゃ〜」
「ツッコミは辞めるつもりはないよ?三成とあたし、二人ですればいいじゃないか」
「そんなあ〜!?ねねぇ〜」
「え?え?え?」
ずるずるずる
「むう、陰謀を阻止されてしまったな、御二方に察知されてしまったか……」
「いや……べつにそういうんじゃないでしょう」
「三成殿〜!楽しみにしてますね〜〜!」
ずるずるずる、と連れて行かれる三成に向かって
「あ、あと遅くなりましたけど」
と声を上げて幸村
「今年もよろしくお願いします〜〜!!!」
おわり もどる