あさはやく
夜と朝の境
空はじわりと白んで行き、何時からともなく鳥のさえずりが耳に届くようになる。
真っ直ぐに、槍が繰り出され
掛け声とともに時折り柄がくるりと円を描く。
「随分早起きなのだな、幸村」
「あ、おはようございます三成殿!いえ、三成殿もお早いですね!!」
「いや……実は、徹夜明けだ」
「ええ!?大丈夫ですか!」
何故だか、さあっと青くなる幸村
「別に。これから寝る」
「で、でも……三成殿、ちゃんと記憶がありますか?」
「は?」
「だって寝ていないのでしょう!記憶が食べられてるかもしれませんよ!!」
「はい?」
真剣に問う幸村に三成目をぱちくり
「夢を喰う物の怪は、人が起きてて夢を見ていなかったときは、変わりに記憶を食べてしまうのでしょう?」
「……幸村……」
――本気なのか?
真っ直ぐな目
――本気なのだな……
「誰に聞いたんだ、そんな話」
「え?皆にですが?……姉上も小助も、それに兼続殿も言ってました」
「……あいつ……」
「小さい頃兄上も一度食べられてしまって、その一晩記憶が途切れ途切れになってしまったんです」
「そりゃ、そういうこともあるかもしれんが……」
「うっかり早く来たりすることもあるらしいので、気をつけないといけないですよね」
他愛ない子どものしつけ
だったのだろうが、その後誰も訂正しなかったようだ
「そうだな」
三成もしなかった
――いつか、自分が困るかもしれなかったが
普段らしくもない、自分でも不思議な表情がこぼれた
「とはいえ物の怪は武士ではないので戦さ場には現れないそうですが」
「ふむ……ごまかしたな」
「なので夜襲の時は起きていてもいいのです!!わくわくしますよね!!」
「…………」
おわり もどる
最後のは無邪気に怖い、かな……