観月
日の暮れて間もない空は雲が覆い、風に乗って留まることなく形を変え流れていく。
とある屋敷の庭、なにやら袋を抱えた兼続と、向かい合って幸村、三成が並び、少し離れて島左近が立っている。
「今夜は十五夜、月見用のだんごをつくるぞ!」
「はい!」
「……なんでうちでやるんだ」
一応従いつつも三成が問う。
「今晩は俺は用事があるのだぞ」
「うむ、構わんぞ」
「俺が構うのだ!」
「左近に美味しいだんごの作り方を聞こうと思ってな」
「なんだと?」
「はあ、そういうわけで俺も呼ばれたんです」
と左近が三成に答える
「材料も持ってきたぞ、もち米だ!」
と袋を持ち上げる
「そこから作る気か!?」
「捏ねておいたのがありますから、丸めて茹でるぐらいでいいでしょうな?」
「あまり時間もないですし、三成殿も……」
皆に反対されて兼続も結局諦める。
「むう、折角美味しく育ちそうな種籾を選んでもらおうと思ったのだが……」
「そっから手作りか!?何時になるんだ!!」
風に流れていく雲が白く光り、合間より小さな、でもはっきりとした輝く丸い月
飾られた薄は風に揺れ、その側に形のそろわぬ白いだんごの山が鎮座する。
「こうして眺めてると、昔のことを思い出します」
幸村は上方に向けていた顔を、左近へと向けた。
「懐かしい、と思えるようになったのでしょうか?」
「さて……」
三成から視線を背中に受けつつ、左近もまた思いを馳せる……
昔……昔……
……昔!?
幸村は俯き、表情が前髪の影に隠れる
「あーー……」
「……あのときの事は心に仕舞っておきますからっ……!」
そういって、顔を背ける、その肩が震えていた。
「で!?ゆ、幸村、ちょ……」
その態度は、誤解を招く
「左近!!!」
振り向けば、凄まじい目つきの三成
「や、殿、違いますって」
「何がだ!!」
三成は左近に詰め寄る
「これはですねえ」
「言い訳無用!!貴様幸村に何をしたぁ!!!」
「幸村、ちゃんと説明を……」
と言おうとして、はたと止まる
「あ〜……いや、やっぱいい」
心に仕舞っていてくれた方がいい、おそらく良い、
言うのは止そう
そう結論して口を閉じる
「な!?さ、左近……お前」
その態度に更に衝撃を受けたらしい三成
がくがく、動きがおかしい
おかしいまま、左近を掴んで揺さぶる
がくがく
「殿、落ち着いて、落〜ち〜着〜い〜て」
なだめながら、兼続へと視線を向ける
「兼続殿も、なんとかしてくださいよ!」
「ん?」
その兼続は、もくもく だんごを食べながら騒ぎを眺めていた。
もくもく、ごっくん
飲み込んで
「幸村、武田にいた時に左近に手を出されたのか?」
と真顔で聞く
「え……?」
「うわ!?違いますよ!!!」
思わず叫ぶ
「だ、そうだぞ、三成」
「う……む、そう……か?」
「そう心配するな」
「そうですよ!あ、殿そろそろ行かなければ、時間がありませんよ?」
と話題を変える。
「そうだな、早く用を済ませてこい」
「待ってますから」
兼続と幸村もそれに続く
「あ……ああ……ならば一体何が」
「さあさあさあ!秀吉様も待ってますよ、さあ!」
手早く準備をしながら有無を言わさず送り出す
2人が去っていった方を眺めた後
「本当は何だったのだ?」
「え?」
幸村は、きょとんとした顔で返す。
その表情をみてから、兼続も続けて問うことにした。
「先ほど昔がどうとか言っていただろう?」
「ああ……いえ、心に仕舞っておくと言いましたし」
「む?そういう言い方だと、気になるではないか」
「……昔、左近殿が武田にいた頃、大きな観月の宴があったのですが、その時のことを思い出してしまって……」
そういって、また、俯く
ふるえる肩
「幸村……」
自身もまた頭を下げて、その顔を覗き込んだ兼続は
次の瞬間、目を丸くした。
「……っふ」
「あはははははは!」
「幸村!」
とそこへ戻ってきた左近
「あ、ははっ、す、すみませんっ、話してませんっ!」
「はあ……笑いすぎですな」
「いや……ははっ、すみません」
「……一体何事だ?」
呆れて問う兼続
「大したことではないですよ、幸村が大げさなだけです」
左近は苦笑を浮かべて、ゆっったりとした所作で兼続の隣に座る。
「左近殿、今がそんなですから、比べてしまいますと……余計に……っぷ」
と笑いを我慢して、震える幸村
「……幸村に言われたくはありませんな」
憮然として左近は睨むが……
2人の間に座って兼続はもくもく、だんごを食べる。
「むう……」
と手を止め、
「もしかしたら……心配した方が良かったかもな、三成」
そういって、もくもく、また口を動かし始めた
おわり もどる
え〜……左幸というわけでもないですよ……(本当か?)
多分はら踊りとか女装とか?
観月の宴というより宴会