おくりもの
部屋に客人を向かえ、なだめすかして押し留め
「なんで会えんのだ」
「いや、会えないと言う訳ではないんですが」
その客人、直江兼続に向き合う左近はなんとも弱った顔
「しばらく待ってもらいたい、というだけですよ
本当に申し訳ないですが……」
頭を下げるのを見て、兼続は一応大人しく座って待っているようだったが、
(俺の手にはあまりますよ〜、殿)
「三成はどうかしたのか?」
「え?いや、なにもないですよ」
「ふむ?……三成とはいつもの如く義について語り合おうと思ったのだが」
「はあ……義ですか」
「うむ、義論というではないか」
「面白くないですよ」
「これだけは日の本一でありたいと、毎日暇を見つけては練習を重ねて」
「は?」
どこからか、何枚か紙を取り出して広げる
「綺麗に書けているだろう?」
「義?」
「これだけは誰よりも美しく書きたいのだ!」
「字?」
「なんだ?ハネが今ひとつ、か?」
「さ、さあ?」
「こちらのは愛らしさが足りん気がするのだ。」
「愛らしさ??」
「上手く書けたら皆に配るのだ。」
「皆にですか」
「うちの忍に頼んで枕元にそっと、特に義を忘れるものには沢山。」
「嫌がらせですよね……」
紙を一枚、そっと手渡し、いい笑顔
「左近にはこのわりと雄々しい義が似合うな!!」
「わりと……いや、何ですか!?あ〜もう……いつも殿はどうしてるんだろう……」
「三成?」
と懐に残りを収めつつ兼続
「もちろん義についてともに熱く語っているぞ!!」
「え〜〜?流石にちょっと」
信じられませんな
「で、三成はどうしたのだ、幸村が来ているのだろう?」
「知ってたんですか」
「うむ、それもあって来たんだが」
「はあ……いえ会うのはいいんですが、ちょっとだけ待ってくださいませんか」
「うん?」
貰った一字をどうしようかと眺めつつ、左近は説明する
「珍しく、本当に珍しく、2人きりなんですよ。」
「ほほう」
「それも何時までか、ですが……折角の機会ですし、しばらくそっとしてやって……」
といったところで気配を察して顔を上げる
「って兼続殿!」
見ればすでに立ち上がって扉を開け放つところで
「何処行くんです」
「なに、邪魔はせん」
「殿に頼まれたんですから」
「覗くだけだ」
「だめですって」
「気にならんのか?」
「なりません」
「私は気になるぞ、なに!心配はいらん!供に覗こう!!」
「何でですか!?」
義はどうした
幸村と三成、縁側に並んで座り、間には綺麗な色彩のお菓子とお茶
「なんだか騒がしくありません?」
「そうか?」
と何でもない風を装いながら答える三成
ちっ左近め、と当人の苦労も知らず内心で舌打ち
(これ以上、あまり時間はとれんか)
「その……幸村」
と声を掛ける
「はい、なんでしょう?」
にこ
顔を向けられると
うっ
そこで止まる
結局、さっきからその繰り返しで
(いや、いかん。流石にいかん!)
「幸村!その……」
意を決して言葉を続ける
「その……聞きたい事……が」
きょとん、とした幸村の表情
「幸村は……が……」
「はい……?」
俯いて視線を下げると、目に入るもの
「…………持ってきた菓子だが、どこで手に入れたんだ」
「え?これですか?」
「ああ」
心に涙
「前から気になっていたのだ、結構珍しいものだろう?時折り持ってきてくれるのは嬉しいんだが」
「喜んでいただけて嬉しいです」
「そ、そうか」
「実は、もらったものなんです……と」
幸村すこし困った顔を浮かべるが、三成は気付かなかった
「……やはりそうか」
「え?」
「いや……もらった、とは誰にだ?」
と本当に気になっていたことを聞く
「おねね様か?」
「あ……いえ……」
「……すみません、秘密です」
「…………」
動かない三成と近付いてくる騒ぎと
間に置かれたお菓子とを眺めて、
幸村は楽しそうにそれを手に取った。
ちょっとすまんのう、幸村
これもついでに持って行ってくれんか
ただし、わしからゆうんは秘密じゃぞ
ん?そうじゃあ!
おまいさんからゆうて2人で仲良く食べてくれればいいんじゃ
わしから、ゆうんは秘密じゃぞ
おわり もどる
ちょっとだけ『be happy』と繋がってます(というほどでもなし)