いつもの
「あんたとこの大将、随分と働き者だねえ。」
背後から突然に掛けられた声にも、左近は驚いた風もなく、ゆっくりと振り返った。
「前田殿……珍しいですな」
「他が休んでる時ぐらいじいっとしてくれた方が、周りも気が休まるだろうに。」
そこにはゆっくりと歩いてくる前田慶次。
そういう当人は他人がどうあれ、ゆったりとした空気を、いつともなくまとっている。
「勤勉なのは結構なことじゃないですか、俺は楽させてもらえますし。」
「そうかい?特に部下は落ち着かないんじゃないかね?」
「遠慮なく休ませて貰ってますよ。
慣れなきゃ石田家の家臣なんて務まりませんよ」
一番の上司が、一番勤勉なのが家中の風で
「殿の場合、仕事がなくなった時のほうがしんどいんじゃないですかね」
「……貧乏性なのかい?」
「……性分ですね」
ゆっくりと頷きあう2人
「まあ、最近は変わったといえますが」
「そうかい?」
「おかげ様で、他にもいろいろやることが出来たみたいで」
「結構じゃあないか」
「そうですかねえ」
ふうー、と左近ため息
「勤勉なのは変わりませんから」
「性分らしいからねえ」
からから、と笑って慶次
「まめといいなよ」
何処からか届いてくる声
顔は見えずともそれと判る、笑い声――兼続だろう
それに答える声は幸村だろうか、兼続の話にはいつも素直だ
仏頂面した彼の顔が自然と思い浮かぶ
「楽しいならいいじゃないかい」
「当人はそれなりに大変なんですから……」
「いや、周りが楽しい」
からから、と慶次が笑い
ふうー、と左近のため息が続いた
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