雨の下で
しきりに空より落ちてきて全てをぬらす雨を自身の身体でも感じながら、ただ見守るだけの時間が過ぎるのを待つ。
(これ以上は……)
身体に障る、という頃合で
「幸村様!」
声を掛けた。
「才蔵?」
今気付いたという訳でもないだろうが、ようやく目が覚めた、と
きょとんとした表情で振り返った。
「あれ?」
「幸村様……」
これだけは、と濡らさないように持っていた、さほど大きくもない布を広げてその頭に掛けてやる。
「帰りますよ?」
問いつつも返事は待たずに歩き始める。
「ああ、うん」
言われるままに歩きだす幸村、きょろきょろと辺りを見回して、
「すまん、才蔵」
頭を下げた。
「幸村様」
「雨を見ていたら……」
下げた表情は布の向こうにかくれたままであったけれど
「色々考えてしまって。」
その声は、淡々としていた。
「色々考えてたら……気がついたら、外に出ていたのだ。」
ははっ
「でも、ここ何処だろう?
……なんだ、何も考えてなかったみたいだ……」
「考えてたんじゃなかったんです?」
「うん」
「でも考えてなかったんです?」
「……うん」
気がついたら、ただ 冷たい と、だけ
「……すまん、才蔵」
ともう一度、頭を下げる『主』の姿に
「まあ、いいですよ、偶になら。待っていますから。」
困ったものだ、と雨の中、気付かれない程度にそっと微笑む。
偶になら、そう悪くはない
弱くなってゆく雨の下、2人並んで―――
「ちっ」
一つの覚えのある気配が近づいてきているのを察して、才蔵は思わず大きく舌打ちをした。
「さ、才蔵?」
「気がついたら彼奴の屋敷の近くに、と言うのは甚だ気に入りませんが。」
「え??」
慌てて近づいてくるその気配の主に殺気を放ちそうになるのを、勤めて抑えながら幸村に向き合って、
髪を拭うように
でも抱きしめるかのように
……そう見えるように
掛けた布越しに目の前の頭へ手を伸ばした。
おわり もどる
才蔵臨戦態勢
幸村を書こうと思いつつ、多分 才蔵VS三成。