ミッション
夕刻と言うにはやや早いが、大地に伸びる影が段々と長くなってゆく時刻、
何気ないように、だが油断なく歩く島左近の姿があった。
先ほどまで僅かに感じていた「見られている」という感覚が今は消えている。
(とはいえ『相手』を考えれば油断したところを……と見るのが妥当か)
左近はそっと脇に抱えた荷物を見る。
「はあ……」
にゃーん
「おっ」
するり、と門影から出てきた黒白牛柄の猫。近くに寄ってきた。
すりすりと左近の脚に身を摺り寄せて、ごろごろ喉を鳴らす
「ははっまたえらく人懐っこいな、でもなにも持ってないぞ?」
ごろんと地面に転がって柔らかいお腹を見せた。
「撫でろって?」
ごろごろごろごろ
すとん
「……ありゃ?」
腕をすり抜けて、包みが落ちる。
「…………」
無言で拾い上げて中を見る。
白い紙の束、だが……
「ない、な……」
その内の一番重要な一枚が抜き取られていた。
「はあ……」
にゃあーん
「まあ、いいか」
「よくない!!」
秀麗な顔を怒りで染めて彼の上司が叫ぶ。
「よくないだろう!『それ』が目的だったんだぞ!」
ばしばし、鉄扇を自分の掌に打ちつけながら左近を睨む石田三成。
「そりゃ殿はそうでしょうけどね〜」
「貴様最初っからやる気なかったろう?」
「そんなことは」
とんとん、と残された白い束を揃えながら左近は怒りの三成を受け流す。
「まあこれで十分ですよ、一応参考にしますし」
参考に
「年齢も書いてもらいましたし」
「いつもそれではつまらんと言ってたじゃないか」
左近選択問題 IN 無限城
「俺がせっかくお前の見せ場を盛り上げてやろうと『武将あんけーと』を考えてやったのに……」
「はいはい」
「紹介状まで書いたんだぞ。兼続も巻き込んで。」
「いろんな方に会えたのは面白かったですし、まあ、それだけは感謝してますよ」
ぱらぱら、と目を通しながら左近
「『理想の告白の方法』だの『行ってみたい逢引の場所』だの『貰って嬉しかった贈り物』だの……」
むくつけき武将に訊いて回った自分は大概変な人みたいだ
途中何度むなしさに襲われたことか
「結構皆さんきっちり記入してくれてるし」
変な所で真面目というか
「ふん!その清正と正則のは城門前にでも貼り出しとけ!」
「はいはい」
怒りの矛先が左近以外にも向かう。やつあたりだ。
「まあ幸村のは持ってかれちゃいましたけどね」
「くそう……やつらか」
十勇士か!
ばしばしばし
ひっきりなしに扇を打ち付ける。
「ああ腹が立つ!」
「はいはい」
「ふん!」
くる、と向きを変えて三成は部屋を出て行く。
「まあいい、直接幸村に会ってくる」
「はいはい」
直接聞けると良いですねえ……
そもそも告白できると良いですねえ
「まあ無理でしょうな」
「なんか言ったか?」
おわり
もどる
左近「はいはい」しか言ってないですが
三成の言うことはちゃんと聞いてます実行します。口は出すけど。