温泉!


人里離れた山中にて、立ち尽くすのは石田三成。
その左右の手には長い柄を握っていた。
木製の年季の入った長い柄
その先端には二つとも鉄の刃が、
ぐにょん
とした形で天を向いている。
突く刺す斬る!というよりは、ああ地面を掘るのにいいなあ……といったごっつい頑丈な鉄の刃

「なんでこんなことに……」

遠い目をする三成の隣へ幸村が笑いながら並んで立つ。
「三成殿も結構乗り気だったじゃないですか?」
「それは……温泉にいくとしか聞いてなかったからだ……」

いや、当初はそれだけだった筈だ。
最初話が出た時は自分も一緒だったのだから
ちょっとゆっくり骨休みに ああそれはいいですねえ
その後一体何があったのだ

「なんだ、『新しい温泉を模索するぞ!』と言うのは?」
「何処が良いか調べて下さったのは兼続殿なんですが
既存の温泉では不満だったらしいのです」
「…………」
「で、自分で温泉の施設を造ることにしたのだそうです」
「…………」
三成はぼんやりと自分の手に握ったつるはしを見上げた。
「……だからって掘るのか……」
温泉を
「なんでこんなことに……」
  
もう一度口に出す。今更意味はないのはわかっているが。



「しかも当人はどっかいってるし」

おかげで幸村と2人っきりだ
……まあ何が起きると言うこともない……

「さすがに兼続殿の考えは違います」
「感心するな……」
「行動力もありますよね!」
「行動力の向かう先が問題なんだ……」

時折、幸村の向かう先も心配になるんだが
……というかあまりあいつばかり褒めるな!

「まあ地面を掘ったところで滅多に温泉が出てくるものでもないですけど」
けろ、として幸村がいう。
「じゃあ何しに来たんだ!?」
「甚八……十勇士の一人がこの辺に隠れ湯があると言うので」
「ああ、なるほど
……ならこのつるはしはなんだ?」
「折角用意してもらったので」
「持ってるだけか?重たいだけか?」
「実は名品らしいですよ。え〜と……村正?」
「そんなわけあるか!?」



「ああ、賑やかだな!」
がざがさと茂みを揺らして出てきたのは兼続。
その手には大きな箱を抱えていた。
「何処に行ってたんだ、お前は!」
「温泉を楽しむための準備に忙しかったのだ」
「まずは温泉を準備してからにしろ」
「入る時までにそろってれば良いだろう?」
「何時になるんだ!」
まあまあ、と幸村
「その温泉も、もう少し待っていただけたら何とかなりますし」
「そうか!」
風情あふるる温泉だと良いな!と兼続は箱を地面に置いた。
「何だそれは?」
「ああ、土産物だ」
「……は……?」
「うむ!ここに巨大温泉施設を建てた暁に、大々的に売り出す予定の品々だ。」
「お前は本当に何処に向ってるんだ!!」
がくり、地面に両手をついた。
「ゆっくり骨休みするんじゃなかったのか!?」

「色々試作品を持ってきたので、お前たちにも見てもらおうと思うのだが」
「あ、おだんごもありますよ三成殿
甘いものは疲れにもいいですよ?」
ひょい、と幸村が目の前にだんごを差し出す。
「疲れたというか……」

ああ、その笑顔が一番の癒しだ。
だがその手のだんごを見ればまたどっと疲れるのだ。

「でもなんだか色が違うような……?」
「試作品だ。新しい見た目と味の組み合わせを色々考えたのだ」
「へえ〜」
「その真っ赤なのは止めといた方がいいぞ、幸村……」
目の前の毒々しいだんごを見ても嫌な予感しかしない
「ふつうの白いのはないのか?」
「すまん」
ないのか……
「食べない、というわけにはいかないのか?」
「お腹がすいただろう?」
いかないんだろうな……
「まあ、腹が減っていれば何でも美味しいと言うし」
自分を納得させながら、緑のを選ぶ
「草だんご……せめて何かの菜類なら……」

ぱくり



ツーーーーーン



「?!!??!???!!!!」
悶絶した。

「みっ三成殿!?」
「ああ、それはワサビ味だな」

「!?!?」
「ん?三成はワサビは苦手だったか?」
「!!!!」

がっ

兼続の口にだんごを突っ込み、ひるんだところで首を掴んで引き摺る。
「三成殿!?」
「ぐっ!景勝公のところへ行くぞ!!」
三成はなみだ目で叫ぶ。
「飼い主にじぃぃぃっくり、言い聞かせてもらう!!」

ずるずるずるずる

「割りと美味いぞワサビ味」

ずるずるずるずるずるずる





おわり    もどる









温泉と題をつけておきながら全く温泉出てこない話。
……幸村と三成の会話を書きたかっただけなんですが
全く甘くないなあ(それ以前の問題)