遠くで


さばー……ん

舟影も見えぬ
ただ広がるばかりの海原
ゆらゆら 段々と境界線へと降りてゆく赤い日

『海の、ばかやろー!!』

と叫ぶにふさわしいばかりな光景

実際そう叫びたいような気分でもあったし
いっそ本当に叫んだほうが気も晴れるだろうに

「はあ……」

口から出るのはただ溜息
これは最近頻繁についているらしく、とうとう先ほど

殿、辛気臭いです。

と左近に放り出されてしまった
当てもなく慣れない土地をとぼとぼあるいて、砂浜までやって来た。





「どうしているだろうか……」
思うのは遥か大阪の町
そこで待っている(であろう)一人のこと
大阪を出る当初は、たかが一月
今となっては、まだ半月
「まだ同じぐらい待たねばならんのか……」
うつろな目をして砂浜にしゃがみ込む
「半月って何年だっけ?」
大分おかしい

『三成殿……』

空耳まで聞こえる。

『こちらにおられましたか。見つかってよかった』

!?
「幸村!?」
がば、と起き上がって振り返る
そこにいたのは……





幸村
…………に良く似た人形
を、抱きかかえた筋骨逞しくまなざし鋭い大男

びしり
固まった

「なんだおまえは!!?」






『ここに控えるは真田家の臣で幸村様に仕えるものです』
人形の口をぱくぱくと動かしながら大男
その顔はピクリとも動かぬ無表情だったが
声だけは本当に幸村そっくりだった。
状況から、幸村の手の者なのは間違いないだろう、とはわかった。
この状況そのものはさっぱり分からなかったが
「普通に話せ……」
『すみません。本来なら城に出向き間に人を置いてお伝えすべきなのでしょうが……』
ぱくぱく
やっぱり人形が動く
『城は……人が多いので』
「それはまあ多いな……」
特に今は大阪より自分が派遣されて来ているわけだし
『人が多いので……どうしようかと……』
そのとき無表情だった男の目が揺らぐ
『どうしようかと思っていたところで、目当ての人物が出かけたようでしたので、こうして後を追ったのです……』
「…………」
まあ事情もわかった、なんとなくわかった
やっぱり状況自体は理解できなかったが





「まあいい、それより……」
幸村から自分に使者が来たのだ
そのことの方が重要だ
「手紙かなにか持ってきたんじゃないか?」
それが例え仕事に関するものでもこの際構わなかった。
期待を込めて問う。
男はじっと座って黙っていたが、
『その一』
ぱくぱく
人形が口を開く

『秀吉様より直々に頼まれました。
やはり三成殿は頼りにされているのでしょう
大事な仕事です。』
「なんのことだ」
『その二』
「だからなんだと……」
と訊きつつも三成はじっと人形を見つめた。
だんだん本人の言葉のような気がしてくる

錯覚か?

『兼続殿にも頼まれました
……私も……』
人形の大きく円らな瞳が心なしか寂しそうに沈んだ

錯覚だ



『会いたいです……』



ざんっ

砂を蹴り上げながら走り出す。
「来ているのか!?」
走りながら問う。
『先に行ってお伝えするはずだったのですが』
背後から声がついてくる。
『城の外で時間を取ってしまったので』
「どんだけ躊躇してたんだ!?」
『いまは到着している頃かと』
「早く言え!!」
『…………』
背後の気配は消えるが、最早気にせず来た道を走る。





波間に半ば沈み、形を揺らす赤い日
赤紫色に染まった波打ち際を
全力で走る石田三成の姿が、 多くの人によって目撃されたと言う。





おわり    もどる









妄想暴走
そのうちちゃんと十勇士の設定まとめよう……
三成への対応も十人十色