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1、妲己 × 曹丕










小さな、だが綺麗に飾られた黒い馬車の周りを、質素な鎧で武装した大勢の兵が囲んでいる。
物音ばかりで一声も漏れ聞こえることなく、整然と。

整然と並ぶ中を、大きな曲線を描いてすべるように進む。
立ち止まるときは、ふわり と一回転。


「あら、董卓さんのところに行ったんじゃなかったの?」
「これは妲己様」
ご機嫌麗しゅう……と身をかがめた男は、身なりこそは商人のものであったが、暗い眼差しも纏う雰囲気も盗賊のそれ。
だが、彼は商人であった。この世界では。
「少し遅れていた品がありまして、それをこれからお届けするところです」
「あら、もう行った後なの? じゃあ、さっきと違うんだ」
そういって、遠慮する素振りもなく ぱかぱか と荷物を開けていく。
「ふんふ〜ん……ん? 何これ、ほとんど箱じゃない」

ぱか

「ま、綺麗……」
目を丸くする妲己に、横で跪いていた商人が一礼して口を開く
「先ごろ捕らえた者たちの中に腕の良い細工師がおりまして、その者に作らせた銀の髪飾りです
なかなか完成させるのに、苦労しましたよ」
そういって微笑む。
「そう……」
妲己も笑顔で応じて、二人してにっこり。


「あのヒゲ樽には似合わないわよ」
「いえ……身に着けるのは董卓様の寵妃たちでして……」
「これ、欲しいな」
「妲己様……それは」
董卓の意に違えばどんな目に合わされるか
「ね、ちょうだい」
目の前の存在に逆らってどう生き延びるのか


前門の狐、後門のヒゲ樽


「……実は、その石よりも大きく質の良い玉も手に入ったところなのですよ
職人はまだ生きていますし、もっと妲己様にふさわしい品物をご用意しますよ?」
「う〜ん……」






大きな曲線を描いてすべるように進む。
立ち止まるときは、ふわり と一回転。


「やっほ〜曹丕さん。ちゃんと働いてる〜?」
「……言われるまでもない」
答える曹丕はすぐには振り返らない。見ずともわかる、不機嫌な顔。
「ほんとかな〜? 見てないと手を抜いてたりしてな〜い?」
「心外だな」
そういって妲己のほうへと向く。思ったとおりの眉間の深い谷。
「におうぞ、妲己」
「んま、酷い! 女の子にむかって臭うだなんで!!」
「……血のにおいがする、何をしていた」
「あら、いいわ。どきどきする匂いってやつよね」
くすくす、と笑う。
それにつれ曹丕の眉間のしわが深くなる。
「ああ、そうだ。これ見て? 綺麗でしょう?」
そういって取り出す銀の髪飾り
「綺麗かも知れんが、やめておけ」
「ええ?」
「似合わん」
「そうかな〜?」
高くかざして、眺める。精緻な銀の細工に碧い玉。
「似合うと思ったんだけどな〜
偉そうでむすっとした顔に、流れる金の髪を結い上げて」
「……何?」


それって、モデル2? 曹魏の王子様?


「ぜひ付けて見せてね〜」
「ちょっと待て!!」


ああ、楽しみだ
きっと似合うと思ったのだから






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