その1

ガツンッ
重い音を立てて弾かれた槍が、その手を離れる
離れた先には目をやらず、意思の篭った眼差しは真っ直ぐ前に
直ぐ前に、白く光る穂先
ぴたり、と突きつけられたまま、動く気配は、ない

2人の勝敗の結末を分けたのは、迷いの有無だろうか

戦いを続けるうち、その心に芽生える一つの疑念
その技か、闘志か、『戦い』そのものか
(亡者などではない……敵では、ない)
疑念をいだいたまま戦いを続ける

それでも、『わかる』ことが嬉しかった。


「真田殿……」
「はっ、はあっ……幸村、でいいです……」
「!!わかってくれたか!」
「ええ、申し訳ない……」
笑顔で槍を下ろす趙子竜に
うなだれる真田幸村
「落ち着いたか、全く……熱いこって」
戦う2人に背を向けて、文字通りの横槍を牽制していた雑賀孫市、
やれやれ、と息をついた。


辺りを包んでいた空気が、緊張とともに流れていく


幸村「本当に申し訳ない……亡者と間違えるとは」
孫市「全くだぜ、こんないい男を」
趙雲「いい男かどうかはともかく、たしかに皆、なかなか誤解が解けないな」
幸村「亡者は見たことなかったので、こういうのも居るのかな~と」
孫市「見たことないって……まあ、俺もないけど」
趙雲「遠呂智……いや、おそらく妲己の策がよほど手が込んでいたのだろう」
幸村「面目ない……」
孫市「ま、気に病むなよ、それに今はそれどころでもないし」
弾かれた槍を拾い上げながら、辺りを見回し
孫市「ほかの連中の誤解も解いてかなきゃならないな、このままじゃ同士討ちだぜ」
幸村「そうですね……」
と、差し出された十文字槍を受け取って
幸村「では!まずはこの近くにいる又兵衛殿を説得してきます!
   この槍で!!」
ざっ、っと構えて走り出す。
孫市「は!?いや、話してくれよ、普通に!」
趙雲「……なるほど、では私はあっちへ行くか!!」
やはり槍をふるって駆け出す趙雲
孫市「えっ、おいおい、本気か!?」


さなだりゅうおうぎ~~
おわ~~


孫市の下へ、新たな騒ぎが聞こえてくる
……が、さほどの時をおかず混乱は収束へ
なんだかんだで同士討ちの被害は最小限に
「『説得』が一番手っ取り早かったんだな……熱いこって」
ここの連中、熱いこって

やれやれ、と息をついた



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その2

幸村「これはお二方とも、おはようございます」
立花「こいつと一括りにするな、たまたまだ」
島津「兵の様子を見て回っていて会ってな……ん? 今日はモデル2か?」
幸村「いいえ、趙雲殿の衣装をお借りしているのですよ」
立花「違いが良く分からん……」
趙雲「これは、なかなか面白い鎧だな」
島津「ならば、こっちは幸村の衣装か」
立花「やっぱり良く分からん……」
島津「いや、幸村のものよりは……」
趙雲「『みらい』の鎧がどういうものか興味もあったので」
幸村「今度モデル1とモデル2で合わせて出てみるのはどうですか?」
趙雲「なるほど、面白そうだな!」


島津「しかし……随分と仲が良くなったようだな
   なんというか、気が合うのだろうかの」
立花「……おもしろい!」
島津「なに?」
立花「幸村のあの懐きよう、おもしろい!
   強情っぱりのあの男の反応が見ものだな!」
島津「あの男……いや、どうしたんじゃ、お嬢?」
立花「強情っぱりで石頭のあの男だ」
島津「誰だかわからぬ、と、問うたわけではないのだがな……
   まあ、お嬢には言われたくないであろうな」



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その3


「ふははは! そのような少勢で突入して何とす……」
「真田流奥義!!」

「貴様はここで朽ち……」
「真田流奥義!!」


「さなだりゅうおうぎ! さなだりゅうおうぎ! さなだりゅうおうぎ!!」


姜維「すごい! まるで鬼神のごとき進軍です!」
孫市「おかげで楽だぜ」

幸村の後について槍を振るいつつ、感激の様子の姜維。
そして、同じく後をゆっくりと着いて行く、雑賀孫市。

姜維「でも疑問なんですけど、『奥義』なのに、ほいほい使っちゃっていいものなのですか?
  『切り札』は最後に取っておくべきものでは?」
幸村「いえ、我が『奥義』の真髄はそこにあるのです」

ぴた、と止まって幸村はゆっくりと振り向く。

幸村「敵の虚を突くが兵法の常。出会い頭に『奥義』と叫びつつ先手を打つことこそが『奥義』!! 」
姜維「なるほど!!」
孫市「単なる力押しの言い訳じゃ……」
幸村「違います。ってことで、この老酒は私が貰っときますね」


ごきゅ~~


その時、突如として辺りに生まれる金属のぶつかる音。
「かかったな!!」
行く手に、背後に、
「囲まれているとも知らず、愚かな!!」
三人を押し潰さんとして迫り来る。


孫市「ありゃりゃ~伏兵か」
姜維「余裕ですね、孫市殿」
孫市「そりゃあな」
幸村「ぷは、さなだりゅうおうぎ! とりゃ、さなだりゅうおうぎ!  さなだるうおうぎ! あ!!」
孫市「あ、噛んだ」
姜維「噛みました! そうか、あれもまた敵の虚を作り出すための策なのですね」
幸村「…………」
姜維「幾重にも仕掛けられし変幻自在の奥義の真髄!! 見事です!!」
幸村「…………(真っ赤)」
孫市「姜維……それ位にしといてやれ……」



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幸村「ああ!!!!」
孫市「うわ吃驚した! こんな時に急に大声出して……一体何だ?」
幸村「……趙雲殿が……趙雲殿の身が、危ない!!」
孫市「は?」
姜維「……そのようですね」
孫市「いや、そのようですねって……お前まで
   何でわかるんだよ?」
姜維「私には、なんで孫市殿がわからないのかが、わかりません」
孫市「普通わかんないだろ」
姜維「確かに、距離はありますが……くっ、まさか孤立しているのでは!?」
孫市「突出してたのは俺たちのほうだろう?
   まあ、お前らが言うのが本当なら、あっちも危機の真っ最中
   こっちも風前の灯火~だ、な……おちつけよ、幸村」
幸村「……わかっています」
姜維「我々は灯火ではありません。もちろん救援に向かいます」
幸村「策は?」
姜維「すぐ後ろに赤くて大きくてかっこいい馬が迫っています
   あれに乗っていきましょう」
孫市「ああ~そりゃいい考えだ。凄いなあ
   で、その馬の主はどうすんだよ」
姜維「生贄で」
孫市「…………」


しばし無言で走り続ける。
だが、決して静かではない。長々話し続けたりしてたから息が荒い。
耳に届く呼吸が五月蝿い。
被さるように馬蹄の響きと空を凪ぐ戟の音が、
ついでになんだか大きな音で音楽まで流れているような気がする。


姜維「……いえ、誰かがおとりになって、引き離してもらいます」
孫市「……俺は嫌だぜ、女性のためならともかく」
姜維「彼方には、期待しています」
孫市「やる気でね~! 男に追いかけられてるだけでも嫌なのに」
幸村「……私が引き付けます」
孫市「あ! 幸村、待てって……!」


土煙を上げて足を止め、そのまま槍を振るう。
一瞬の隙をつかれて、呂布うっかり落馬。


幸村「私は大丈夫ですよ! 趙雲殿をお願いします~!」
呂布「逃げるだけの雑魚かと思えば! 小うるさい!!」


孫市「無茶する……しょうがねえ、さっさと趙雲を助けにいくぞ!」
姜維「駄目です、もう少し赤兎馬が離れてないと」
孫市「ああもう! しょうがねえ、こっちこっち!」

ぴ~、と口笛

呂布「さっきからやかましいぞ貴様ら! 最初っから全部聞こえとるわ!
   赤兎が従うものか!」
姜維「ああ~! もう、何するんですか孫市殿!」
孫市「ええ~! 俺のせいじゃないだろ!」
呂布「貴様ら、覚悟はできたようだな!!」
姜維「な、なんだか真紅の気が」
孫市「うわ~、あんなに怒ることはないよなあ
   女に逃げられでもしたのかってぐらいだぜ」
呂布「…………」
孫市「……あれ?」




「……行ってしまわれた」
憤怒の形相で二人を追い回す呂布の姿を遠くに眺めて、一人ぽつんと立つ幸村。
傍らに近付く気配
「赤兎……え? 乗ってよいのか?」
「ヒン」

どちらに行こうか、は、一瞬の迷い

「今行きますぞ!!」




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