「あくは許さん!!」
とうっ
鋭い声とともに空を舞うは
一本のおたま
「何をむきになっているのだ」
と並んで鍋を囲みながら三成が呆れた声で言う。
「何を言う!!悪と名の付くものは例え僅かでも許せんのだ!!」
と力説するのは兼続
「そりゃあ『あく』違いだ」
火を見ながら慶次、一応つっこんでおく。
「まあ、鍋の番が楽でいいんだがね」
「兼続殿のおかげで綺麗です!」
と慶次の手伝いをしている、幸村と
「うむ!義だな!!」
碗を手に持って2人とも爽やかに笑いあうので
「いや違うだろ」
三成のつっこみも、些か弱い
「でも、違うだろう……」
ぐつぐつと煮立つ鍋を囲むのは4人
「うむ!皆で一つの鍋をつつくこの楽しみよ!!」
1人感動する兼続に
「慶次殿の持ってきた肉がおいしそうです」
「知り合いに貰ったんだ、遠慮せず喰えよ!」
となごやかな2人
そして残る1人、眉間に皺を寄せる三成
「きのこが入っているな」
と渋い顔
「(う〜む、左近に好き嫌いのことで相談されたのだが……)」
「(鍋で騒いで、勢いで食べさせる予定だったんだろ?)」
それを見て、こそこそ顔を寄せあう者がいる
「きのこなんてダシになって鍋に回ってるぜ」
「ダシに……」
と更に顔をしかめる
「(おい、慶次!)」
「(ありゃあ……)」
「きのこ、嫌いですか?」
「嫌いというか……得体が知れない物を口にする気になれないだけだ」
「え、得体?」
「爽やかな日差しの中で育たないのだぞ!!
暗いところにぽこぽこと白い塊になってるんだぞ!!
うっかり腐らせ……腐った○○に……」
「三成殿!?」
何を思い出したのか錯乱気味だ
幸村、驚きつつも肩をたたいて落ち着かせる。
その顔を青い顔で見上げながら
「おまけに毒が」
「いや、流石にこれは毒キノコではないですよ?」
「よく似たのがあるのだ!!」
「大丈夫ですよ、というか詳しいですな三成殿……」
「(腐った○○?)」
「(む、何か嫌な思い出でもあるのだろうか)」
「(そうかい?単なる食わず嫌いじゃないか?)」
「こりゃ何やかや理屈つけて食べないつもりだな」
と肉を選んで自分の碗に放りつつ慶次
「う〜む、作戦の第一段階は失敗か」
と箸をおいて考え込む兼続
「作戦の第二段階を実行にうつすぞ」
瞳に鋭利な光を走らせる
「第二段階?」
「うむ!」
びし、とおたまを構えて
「(『はい、あ〜んしてください』大作戦だ)」
でもこっそりと宣言する
「(……まあ、大体の内容はわかるな)」
「(幸村には、すでに説明してあるのだ!)」
「でも、美味しいですよ」
「う……だが……」
「三成殿」
ごねる三成に苦笑して、幸村はきのこを肉でくるみ、箸で掴んですっと差し出した。
三成は目を丸くして、目の前の光景に見入る
「幸村……」
微笑む幸村の顔をじいっと見つめて
ごく とその咽がなる
そして……
ひょい ぱくん
それは、向きをかえて幸村の口の中へ
「「「!!!!?」」」
ぱくん、ぱくぱく
「ゆ、幸村……?」
ふるふると震える三成の前で、鍋の中身が消えていく。
「残念れふね〜〜」
ぱくぱく もぐもぐ
「幸村……」
がくり、三成肩を落とした。
「ありゃ」
「甘えるな、ということか……ん?」
と兼続の動きが止まる
「鍋の中身が!?」
「あ、悪い。」
食べ損ねたのが、2人
おわり つづく
四畳半から鍋と連想するのは、強引だろうか……